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湊かなえ『贖罪』小説とドラマを観て思うこと

贖罪

大手企業の工場によって、財政も雇用も潤う地方都市。
本社からの転勤組は、そのまま都会からの移住者で
地方と都市部の生活水準の差を、そのまま持ち込んでやって来る。

(あ、今回はネタバレまで一気に書きますのでご注意ください)

得てしてそういった地域格差というのは、子どもたちこそ敏感に感じ取るもので、
都会からやって来たエミリちゃんに憧れながらも、
格差と少なくない距離を感じながら友だちを演じていた5年生の5人組も
そんな微妙な関係にあった。

ある日、校庭でバレーボールをしていた5人組に、
まったく面識のない男が近寄ってくる。
男はプールの更衣室の換気扇の点検を、
誰かに手伝ってもらえないかと少女たちに持ちかける。

男の頼みに応じてしまったエミリちゃんは、
その男に暴行された挙げ句、殺害されてしまう。

娘の死にショックを受け、ほとんど我を失った母親の麻子は、
犯人の顔を思い出せと、少女たちに詰め寄るが、
少女たちは揃って何も覚えていなかった。

贖罪3

それから3年後。
未だに犯人が捕まらない焦燥感と、喪失感が一気に爆発した麻子は、
「犯人を見つけなさい。それができないなら償いをしなさい」と
ほとんど呪いのような言葉を
中学一年生になったばかりの4人の少女にぶつけてしまう。

十数年が経ち、やっと自分のしてしまったことの重要さに気づいた麻子は、
3人を追いかけるようにして自身の間違いを正そうとするが、
麻子の呪縛に掛かった少女たちは、その償いという「約束」を果たそうと、
連鎖するように揃って殺人を犯してしまう。

贖罪4

一人は性嗜好異常の夫を殺し、
一番その呪縛を強く受けていたもう一人は教師になっていて、
学校に凶器を持って侵入してきた変質者を
エミリちゃん事件の償いとして殺した。

贖罪2

もう一人は、兄が兄の妻の連れ子に性的暴行を加えていることを知り、
失望からその兄を殺し、
もう一人は姉の夫を誘って義兄の子を妊娠し、
義兄が自分のモノにならないと知るや階段から突き落として殺した。

そうした一連の事件の中で、
彼女たちはエミリちゃん事件の犯人の記憶を蘇らせていく。

そうして浮かび上がった犯人は、麻子が学生時代に付き合っていた男、
南條であった。

麻子は友人の秋恵から南條を奪って付き合っていて、
突然、秋恵に別れを告げられた南條だけがそのことを知らなかった。
後日、麻子は南條の子供を妊娠したことを自慢げに秋恵に告げると、
秋恵は手首を切って自殺してしまった。

そのときに、秋恵は真実を告げた遺書を遺していたのだが、
現場に駆けつけた麻子がその遺書を持ち去ったため、
南條はその事を知らないままになってしまっていた。

その後、子供を作れない身体の大手企業の御曹司と麻子が出会い、
男は子供が作れないという社会的面目を隠すため、
南條の子供を妊娠していた麻子は、結婚という場所に逃げ込むため、
それぞれを利用する。そんな2人の間にエミリは生を受けていた。

それから10年後、
エミリの提案で、近くの廃屋にみんなの宝物を隠そうということになり、
エミリはそれが何であるのかも知らずに、
こっそり麻子が隠していた秋恵の遺書を家から持ち出してそこに隠してしまう。
そこにたまたまフリースクールの開校を目指し物件を探していた南條が訪れ、
奇しくも秋恵の遺書と出会ってしまう。
そうして10数年経って事の真相を知った南條は、麻子への復讐のために
エミリに暴行を加えて殺害してしまったのであった。

つまり、南條が性的暴行を加えたあとに殺したエミリは、
南條の子供であった・・・(以上は小説の物語)


・・・という、実に湊かなえらしい後味の悪いお話。

途中端折って書いた彼女たち一人ひとりの人殺しに至る経緯にも、
後味の悪い心理描写が、こと細かに描かれます。

そんな作品ですので、私に言わせてもらえば、性的虐待、
幼女虐待というタブーを正面切って描けなければ、
今作のまさに美味しい所を味わうことはできません。

それがたとえWOWOWという有料チャンネルであっても、
さすがにそのタブーを侵すことは難しいらしく、
いかにそこをぼやかすかに腐心している様子が窺えました。

そして、上に書いた私の拙い説明だと尚のこと、
物事の拙速さが際立って感じられると思うが、
それを差し引いてもドラマ版に「何で?」「急に??」と、感じてしまう事も事実。

湊かなえのサスペンス作品は、「たまたま」の出来事に、
とんでもない偶然が組み合わさる、万に一つも起こり得ないような
ほとんど寓話的な要素が含まれることが多い。
そこを巧みな構成力や文章力を使ったチカラ技で押し切ってしまう
物書きの「巧さ」があるのだが、そういった非現実的な部分を
現実にしないとならない映像として組み直すのは
かなり骨の折れる作業になると思う。

そのためか、もしくは尺の問題なのかどうかは分かりませんが、
設定が大きく変えられており、
最後の最後に特大の嫌な思いをしたくて読み進んだ読者の興奮は、
決して再現されることなく、
ドラマ版では火曜サスペンスレベルに収束してしまいます。

特に、ドラマ版では麻子がまるで魔女のように
彼女らを追いかけ回す様子が描かれますが、
小説では自身が子どもたちに言ってしまったことを後悔することから始まっています。
麻子はしてしまった罪の意識を感じながら、そこに更に追い打ちをかけるような、
残酷で衝撃的な事実を知らされるという、
1mmの救いもない奈落に突き落とされて終わります。

ドラマ版では、麻子を子供を失って気が違ってしまったサイコパスにすることで、
自業自得、因果応報という今作の物語の最終目的は保たれますが、
単純悪の成敗という分かりやすいオチに貶められているように思いました。

前にも書きましたが、湊かなえの描くサスペンスは、
最後の1行のためにそこまでの数百ページがあるかの如くの、
まさに大どんでん返しと言っていい結末が多く、
しかも、その後味の悪さを含めてもの凄いインパクトを読者に残します。

もちろんそんなインパクトを映像でも再現しようと
意気込む気持ちも良く分かりますが、
薄味にしないと描けないテレビの掟に縛られ、
残念ながら、湊かなえの美味しい所はほぼ失われておりました。

そういった縛りのない、できればR25指定の利くコンテンツで、
湊かなえの不条理な世界をきっちり映像化して欲しいと、
いちファンとして思うところであります。
たぶんそれを観たいと思う人はあまりいないとは思いますが…

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週火曜日の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
あとから思えば大型で強烈な台風19号と21号の合間であった
貴重な週末に、例によって茨城の海に向かったといういつものお話でござんす。
  

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テーマ:ミステリ - ジャンル:小説・文学

2019.11.01 | コメント(0) | トラックバック(0) |

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オートバイと
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