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存在のない子どもたち

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裁判官:“開廷します。なぜ法廷に?”

ゼイン:“両親を訴えたい”

裁判官:“何の罪で?”

ゼイン:“僕を産んだ罪”

もうこのやり取りだけで胸が締め付けられてしまう。

学校にも通えない12歳の子供が、裁判で人を、
しかも親を告訴するなんてことは、中東の貧民街でなくとも、
日本であっても荒唐無稽な映画の中の話でしかないことはすぐに分かる。

だから、この映画が伝えたい(見せたい)のは、裁判劇などではない。

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「貧乏子だくさん」なんて言葉が一切笑えないくらい
何人兄弟なのかも劇中で明らかにしないくらいの大家族。
12歳のゼインは学校にも行かずにその家の働き頭として
一家の生計を助けている。

学校から帰ってくる子どもたちを尻目に、
雑貨店の小間使いのような仕事に明け暮れるシーンだけで
胸が一杯になってしまうのに、そこにつづくシーンは更に衝撃的になる。

ある日、一緒に路上でジュースを売っていた、
1歳下の妹のサハルのパンツに
血が付いていることに気づいたゼインは、
すぐに近くの公衆便所にサハルを連れて行き、
そこで下着ごと脱がせすぐに洗いはじめる。
そして、血を洗い落とした下着と一緒に自分の着ていたシャツを手渡し
自分の股に挟んでおけと命令する。

それは、妹に生理が来たと知れると、
どこかの男に嫁がされてしまうことを知っていたから。
親にその事を知られまいとした行動だった・・・

身分を特定するIDも、出生証明すらない親から生まれた子どもたちに
もちろんIDなどあるはずもない。
ゼインに至っては12歳という年齢ですら不確かであった。

働き先がないとか、不景気で仕事がないとかいったレベルではなく、
移民で溢れかえる街では、IDがなければ正規に働くこともできない。
それは貧富の差や格差とはまた違った次元の問題で、
自身が自国の市民であることを証明するものがないということは
この街では人間として存在していないことと同意義。

偽造IDは高値で取引され、人身売買は当たり前のように横行し、
小さな女の子が「闇業者に300ドルでスウェーデンまで逃がしてもらう」と
夢を語るように話す街。

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逃げるように隣国からこの街に移ってきた移民もまた、
生きるために、大切な我が子を育てるために、
いつ当局に見つかって強制送還されるとも知れない恐怖の中で生きていく。

現実逃避のための一時の快楽のためだけに、
育てられないと知りながら子供を産み続ける親と、
たった一人の子供を守り抜こうと必死になりながらも、
拘束されてしまい幼い子供の元に戻れなくなってしまう親。

そんなふたつの家族と係わり合うことになる12歳のゼインの視点を通して、
悲惨なんていう表現では追いつかないような、
貧民街での過酷な生活の様子を、
これでもか!と繰り返し繰り返し観る者の心に焼き付けていきます。

先述した衝撃的なシーンはまだ映画の冒頭。序の口ってやつだ。
そこから急激な右肩上がりに、切り取られるシーンは過酷さを増していく。
そこは希望など一切ない絶望の果ての街で、
彷徨うゼインに何か良いことが起ころうとは微塵も思えない。
映画も中頃に差しかかったかという段で
すでに観ているのが辛くなってしまったほどだ。

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それでも観続けようと思えるのは、
ゼインのもつ強いハートと、兄弟思いのやさしさと、
狡猾とも言える賢さに、唯一の救いを見いだすことができるから。

マイナスがプラスに転じるどころかゼロにすら戻らない、
まだまだどん底からほんの少しの青空が垣間見えた程度で
「このつづきを考えるべきなのはこの映画を観たあなた方ですよ」
とでも言いたげに映画は終わりを迎える。

でも、そのこと自体に喜びを感じられるような、
観た者が、その事を知ることができたことを喜べるような、
そんな映画になっています。

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そんな目を背けたくなるような現実を観る者の心に焼き付けるために、
監督のナディーン・ラバキー(左の女性)は
役者経験のない実際の難民たちを起用した。
事前に用意されたセリフはなく、撮りたいシーンを演者と共有しながら、
演者が実際に経験してきた生の人生を、
実際の境遇をカメラの前で即興で再生させた。

読み書きもできない人々を使って映画を撮るという作業の難しさは
想像を絶するものであっただろう。
そういう奇跡のように生まれた今作品は
万引き家族』がパルムドールを獲得した昨年のカンヌ映画祭で審査員賞に輝いた。

       ※※※※※ 注意 ※※※※※
本作を観に行こうと思う方は、
この下に貼ったメイキング映像を先に観ない方が絶対に良いのでご注意ください。
本編を観たあとの胃痛を鎮める胃薬のようなものとお考えください。




劇中で描かれる中東の貧民街の実状が現実であることは
もちろん頭では分かっている。
それでもこのメイキング映像を本編を観終わったあとに観ると
「あ〜作り話だったんだ〜〜良かった〜〜〜〜」と、
異様なほどにホッとしてしまう自分がいた。
それくらいインパクトの強い内容でありました。
(オススメ度:100)
  
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 夏休みのお知らせ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

さて、誠に勝手ながら当ブログは25日まで夏休みをいただきます。
いつも楽しみにしていらっしゃる方には大変申し訳ありませんが
何卒ご了承いただければと思います!
次回の更新は26(月)になりますので、
引き続きよろしくお願いいたします!!!!

では、Have a great vacation !

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2019.08.09 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

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埼玉のへそ曲がり

Author:埼玉のへそ曲がり
オートバイと
スノーボード。
近ごろ波乗り。

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