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物語のおわり

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大きな街へ行くには山を越えて行かなければならないような山間部の小さな町。
そこで暮らす中学生の絵美は、山の向こうにひろがる世界を空想しながら、
ノートに小説のまねごとを書きためていた。

実家の小さなパン屋を手伝っていた絵美は、
昼食のサンドイッチを買いに来ていた高校生の公一郎、
“ハムさん”と出会い、いつしか付き合うようになっていった。

取るに足らないような毎日を過ごしながら、
二人は親の公認をとりつけ、ハムさんと婚約を済ませていた。
そんなある日、街へ出て行った友人から、
有名小説家の弟子になる誘いを受ける絵美。
その誘いに乗るにはハムさんとの関係は断つ必要があり、
地元の町での堅実な生活を選ぶか、自身の夢を選ぶかの狭間で揺れる。

そして、町を出る決意をした絵美は、一人バスに乗って駅に向かうが、
そこには事を察したハムさんが待っていた・・・

というところで終わるコピー用紙に書かれまとめられた
私信のような小説『空の彼方』を、北海道へ向かうフェリーで、
萌という少女から受け取った智子。

智子は父親をがんで亡くしており、
智子自身も妊娠後にがんが発覚していた。
それでも子供を産むと決意した智子は、
思い出の地である北海道へと、フェリーで向かっている途中であった。

その唐突な物語の終わり方が、果たして意図された表現なのか、
もしくは書きかけなのかも不明な『空の彼方』であったが、
「現実を生きるか、夢に挑むか」という誰しもに訪れる
究極の選択で終わることに、智子はこの物語の伝えようとする意図を汲み取る。

そうして智子は、この物語の主人公の絵美が、
駅で待っていたハムさんに説得され、その場は一旦家に戻るが、
きちんとハムさんを説得して改めて夢に挑んでいく絵美を想像し、
それが『空の彼方』の結末であると想像する。

プロカメラマンになる夢を諦め、家業を継ぐことに決めた拓真は、
富良野のラベンダー畑で観光中の身重の女性にカメラのシャッターを頼まれる。
そのあとその身重の女性と、周辺のラベンダー畑を
自身の車に乗せて回ることとなった拓真は、その女性に
夢との決別を誓って訪れたのが今回の北海道旅行であることを告げる。

その身重の女性が前章の智子で、
別れ際に智子は『空の彼方』を拓真に託すことにする。
拓真は、芸術を志す者は夢を追う前にまず自身と向き合う必要があると
その未完の物語から答を得る・・・

そうして『空の彼方』は、
映像制作会社に内定が決まり、北海道に輪行に来ていた綾子、
学生時代に付き合っていた彼女が妊娠し、そのまま学生結婚して
苦労しながらも一人娘を育て、
久しぶりにオートバイで北海道にツーリングに来ていた木水、
少女時代に憧れた年上の男性への思いを、急激に冷めてしまうように無くし、
以後40才を過ぎるまで脇目も振らずにキャリアに没頭してきた
あかねの手に渡っていく。

そうして様々な人々に気づきを与える『空の彼方』を最後に受け取ったのは、
ハムさんこと、公一郎であった・・・
公一郎は実在しており、そしてこの物語は実話であったのだ。

そして、『空の彼方』には実はつづきがあることが知らされる。

というお話。

個々の登場人物の『空の彼方』への感想が、
それこそその人生ごとに違い、そのどれもに共感できてしまう。
それほどに、退屈にも思える変哲のない毎日が地続きのような人生と、
「夢」という不確かなものへの羨望という2つの人生の岐路は、
それを掴んでも、そこから逃げても、どちらにしても
その人生に意義をもたらすものだと、読む者に伝えてくる。

もちろん、最後に明かされる『空の彼方』の本当の結末にも
グッとさせられるとても良い話です。

湊かなえという作者の懐の深さを、
またしても痛烈に知らされた快作でありました。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて明日の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
2015年公開、鬼才テレンス・マリック監督作『聖杯の騎士』の感想です。
お楽しみに。  

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テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

2019.06.20 | コメント(0) | トラックバック(0) |

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オートバイと
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近ごろ波乗り。

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