FC2ブログ

ユートピア

2018_1203-28.jpg
他人の不幸は蜜の味。

とはよく言ったもので、他人を下げることで安心感を得てしまうことは、
悪いと知りながらでも自己防衛としてついしてしまう小さな罪のひとつだろう。

SNSなんてない時代から、
人は多かれ少なかれ噂話や誹謗中傷などを踏み絵やリトマス試験紙に使って、
コミュニティの中での自身の立ち位置や属性など、
周りの人々とのバランスをとってきたのだと思う。

出身地や、住んでいるエリア、世帯収入に至るまで、
コミュニティのレベルを逸脱したりすれば、
それは妬みや嫉みの対象となってしまう。

大手食品加工メーカーの工場があり、
そのメーカーの存在によって成り立つ地方の町が今作の舞台。

先祖代々の昔からその場所と共に生きてき来た人。
食品メーカーの転勤でよそからやって来た人。
そして、この町の海沿いの美しい景観に魅入られ、
ここを芸術の町として発展させようと考えた芸術家たち。
そんな3つの、立場や美意識、哲学の違う人々が、
町の中心にあるユートピア商店街で、
混ざるともなく交わっていく姿が描かれる。

昔あった未解決の殺人事件なんて、
サスペンスとしてのエッセンスもあるにはあるが、
それ以外は商店街で起こるちょっとした事故や事件がほとんどで、
得体の知れないバケモノや、政府の陰謀、
町にサイコパスが潜んでいたり、なんてことは一切ない。

どこにでもありそうな商店街の裏側でやり取りされる、
噂話という膨大な情報だけで物語が形成される。

その情報は特に脚色されているわけでも、
大げさに語られたりするわけでもなんでもない。
他愛のないただの噂話でしかないのに、
どうしてこれほどまでに読む者を魅了するのか。

それは、噂話を生み出す人間の想像力の逞しさと、その力の持つ恐ろしさを、
湊かなえという人は猛烈に肯定しているだからだと思う。

登行時の子供の列にクルマが突っ込み、
子供の一人が歩けなくなってしまう心的外傷後ストレス障害を
追ってしまうのだが、その子にだけ補償が出たことに関して、
「うちの子だって怖い思いをしたのに、あの子の家だけズルい」といった
噂話が語られる。

ただの僻みや日頃の鬱憤晴らし目的でされた、ただの軽口であるのだろうが、
その子供の親の立場に立って考えてみれば、
その噂話の方が事故自体よりもよっぽど恐ろしいことであることに気づける。

他愛もない狭い世間の噂話に少なからず苦しめられる登場人物、
そして、噂された人間もまた、誰かのことを悪く解釈してしまう。
人間のもつ負の想像力が小さなコミュニティの中で
次から次へと伝染していく様が描かれます。

そして、
美大卒の芸術という数値で顕せないことをやっている自分に酔って、
美術や芸術に疎い人間を見下す習性については
私にも思い当たるところがないでもない。
そんな表だっては肯定されないが、
意識の奥底で知らず知らずに周りと分断していく様子も披露され、
これがまた辛辣であったりする。

いつか町を離れていく人。
離れたくても一生この町から離れられない人。
ここを終の棲家と決めて、町を盛り立てようとする人。

そんな経済活動やプライドといった因子も絡みながら分断されていく親たち、
そして、分断されていく大人たちを見つめるその子どもたち。

四者の希望と絶望が、小さな田舎町で緩やかに激突していき、
舞台裏で進行していた無邪気な悪意によって、
物語は思いもよらないような結末を迎えます。

そんな、どこにでもあるような「理想郷」と呼ぶにはほど遠い町の片隅で起こる、
どこにでもあるような「他愛もない悪意」を集めた物語。

それなのにその事から目が離せなくなるのは、
やはりこの物語が、読む者の日常と絶妙にリンクするからだろう。

間違いなく傍観者なのに、なぜか当事者のように身につまされてしまう。
否応なく読む者を物語に引きずり込む巧妙な仕掛けが、
この小説のあちらこちらに仕掛けられています。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて明日の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
20世紀FOX版としてはこれが最後となる『X-MEN ダークフェニックス』の
感想をお届けしたいと思います。お楽しみに。
  

関連記事
スポンサーサイト



テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

2019.06.27 | コメント(0) | トラックバック(0) |

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

埼玉のへそ曲がり

Author:埼玉のへそ曲がり
オートバイと
スノーボード。
近ごろ波乗り。

月別アーカイブ

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR