サラバ!

サラバ

西加奈子の『サラバ』を読んだ。
話題作だったこともあり、本屋で文庫本を見たときに迷わず買うことにした。
文庫本だと手が出しやすいのは、もちろんお値段の問題なのであるが、
『サラバ』は文庫本で上・中・下巻とつづく超大作。
3冊も買うとなるとお財布的にも大作だ。

そんなボリューム感とは裏腹に、中身は至ってフツーの生活が描かれていて、
こんなんで話が最後までもつんかい??と心配になるほどフツーの話が続く。

父親の赴任先であるイランで生まれた圷歩は、自由奔放に生きる母と、
それに対抗するように目立とうとする自意識過剰な三歳上の姉の貴子という
二人の女性に常に翻弄されて過ごしてきた。
できるだけ面倒を避けたい性格もあり、
自己防衛のために覚えた処世術と端正なルックスを駆使しながら
多感な幼少時代を乗り越えていったが、次の赴任先であるエジプトの地で、
ある日突然、親が離婚してしまう。
しかし、身につけてしまった処世術によって、
離婚の理由を誰にも訊けないまま大人になっていく歩。

そして、自己主張が強すぎるが故に、周りから疎まれ、
それによってさらにウザさを増していってしまう悪循環に陥った姉の貴子は、
最後は引き籠もりとなってしまう。

そんな姉や母から逃げるように、東京の大学に進学した歩は、
相変わらずの処世術で、当たり障りのない人生を送っていたが、
誰かに対する対処療法でしか行動の指針を立てられない自身を
どこか醒めた目で見つめながら、それ故に目標のない無軌道な人生に
迷い始める。

そんな主人公の独白で綴られるストーリーに加え、
地域のボス的存在だったおばあちゃんを教祖と慕う者たちが
勝手に作り上げた新興宗教「サトラコウコモンサマ」だったり、
巻き貝のオブジェに身を包んで都市部に出没しはじめた姉を、
前衛芸術家として世の中がもてはやしたり、
家族達の不吉な行動は、離れて暮らす歩にいつまでも降りかかってくる・・・


海外での生活であったり、新興宗教であったり、親の急な離婚だったり、
親が説明もなく出家しちゃったり、
決してフツーとは言えない状況もあるにはあるが、
作者が描きたいのは主人公の心模様の方なので、
物語の背景はあくまでも飾りでしかないと私は思う。

なので、主人公の歩の心模様がそういった特殊な背景に由来するように
描かれている部分がちょっと納得できない。というかスッと入ってこない。

特殊な出来事に翻弄されなくても、人生ってやつはややこしいものだと思うし、
どんな平坦な人生であっても、生まれいずる悩みってやつを
抱えて生きていくものだと私は思う。

とか思ってしまうほど、主人公に起こるフツーの出来事の描写が実に見事で、
まるで誰かの日記を読んでいるような、告白ともとれる文章には、
男女を問わず誰しもが引き込まれてしまうことと思う。

なので冒頭言ったように「これで最後までもつのか?」という心配は
下巻になって更に強まってきてしまうわけだが、
物語にカタルシスを与えようとちょっと無理して舵を切ったような
違和感を残したまま物語は幕を閉じてしまった。

主人公はあのまま何事もなくオッサンになっていった方が
良かったんじゃないのか?

異常だった姉が、あそこまで “まとも” になる必要はなかったのではないか?

不都合な状況を是正する力を加えずに、
そのまま放置して終わった方が「らしい」かったのではなかろうか?

フツーの描写が見事であるが故に
そのフツーという日常の異常性をニュートラルな状態に戻そうとした
今作のオチの部分は、逆に不自然な出来事であったように感じてしまった。

ただ、現実から逃れようとしたり、
臭いものに蓋をしようとすることは、誰だってしてしまうものだ。
そういった誰にでもある「後ろめたいこと」を真っ直ぐに捉えながら、
そして少し斜に構えた達観した文章で描いている部分は本当におもしろいし、
作者のもの凄い才能を感じさせる部分でもある。

言ったように、オチの付け方に関して私は腑に落ちていないのだが、
そこへと至る日常の切り取り方、伝え方を楽しむという意味において、
誠に小説らしい小説だと思いました。
  

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テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学

2018.05.31 | コメント(0) | トラックバック(0) |

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埼玉のへそ曲がり

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オートバイと
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