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私を離さないで

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『私を離さないで』(原題:Never Let Me Go)は、
先日、2017年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの
2005年に発表された同名小説を、2010年に映画化した作品。

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日本では蜷川幸夫演出で舞台化され、昨年には綾瀬はるか主演で
テレビドラマ化もされていたようだが、私はまったく知らなかった。
そもそもこの作品、ひいてはカズオ・イシグロのことも
私はよく解っていなかった。
なので、たまたまWOWOWでこの作品を観たときの衝撃が、
本当にすごかった。むしろ、予備知識が何もなくて本当に良かった。

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物語は「1952年 不治とされていた病気の治療が可能となり
1967年 人類の平均寿命は100歳を超えた」
という
パラレルワールドの存在を予感させる、SFめいたテロップから始まるが、
舞台は海外ドラマなどでよく見かけるイギリスの寄宿学校での、
どこにでもあるような少年一人に少女二人の三角関係が描かれていく。
この展開と『私を離さないで』という脱力しきった題名も合わさって、
冒頭の部分はかなり退屈に感じましたが、
せめて謎かけのような冒頭のテロップの解答くらいは確認してから
観るのを止めよう・・・とか思っていたら、

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「あなたたちは長生きができない」と、
あまりにも唐突に、女教師が生徒達に衝撃的なことを語りはじめる。

「普通の人は母親になることを夢見たり、
 人によってはカー・レーサーになることを夢見たりするでしょう。
 でもあなたたちは違います」

その脈略なく語られる一言で、
冒頭のテロップのことが急激に思い出される。

そう、彼らは臓器移植のための、生きた臓器の「畑」であった。

「だいたい3回目の“提供”“終了”します」

そう告げた女教師は、翌日解雇され学校を去っていき、
それによって、その臓器提供システムに反対する勢力の存在も示唆されるが、
誰かの命と臓器を引き替えにしてでも、死にたくないと願う人間の
良心を凌駕する悪意の世界が描かれる。

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彼らがオリジナルを持つクローン人間であることも示唆されるが、
それすらなんの気休めにもならず、むしろ、その悪意は更に凶暴化する。

彼らに絵を描かせてそれらを教師達が評価するシーンがあるのだが、
後半になってその意味が語られる。
それは「この子達に魂があるのか知りたかったからだ」と。

これは家畜を見て感じるところと似ている。
もう少し解りやすく言うと、鯨に対する感情に似ている。

観ていれば、彼らが単なる「畑」でないことは一目瞭然にわかる。
魂を持った普通の人間であることがわかる。

その証左として、愛し合う者はそれを証明できれば
「提供」に2〜3年の「猶予」が与えられるという噂が彼らの中で流れ、
やはり、その可能性にすがってしまうわけだが、
それが嘘であることがすぐに発覚してしまう。
ほのかに見えた希望が嘘だと分かる絶望感。

しかも、望むのは永遠の命や長生きではない。
たかが2〜3年延命される程度の話だ。

未来の出来事ではなく、過去の世界を舞台にすることで
ファンタジー感を高め、こんな吐き気のするような世界感を中和している。
それらが、決して諦めなどではなく、
短くも愛おしい人生を成就しようとする主人公達の葛藤を際立たせている。
この題名も、臓器を失っても生かされている者たちの絆を顕しているのだが、
読む者の裏をかくための仕掛けでもあったのだろう。

ユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンソン主演の2005年の映画
『アイランド』でも、同様の臓器移植用クローン達の世界が描かれたが、
そちらはそうだとは知らされていない者たちが、それを暴いていく
物語であったので、むしろ痛快なSFアクションに仕上がっていた。

その『アイランド』の持つ悪意の濃度を、極端に上げた作品が、
この『私を離さないで』だ。

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主演は
キャリー・マリガン(『華麗なるギャツビー』)、
アンドリュー・ガーフィールド(『サイレンス』)、
キーラ・ナイトレイ(『パイレーツ・オブ・カリビアン』)。

そして脚本を私の大好きな『エクスマキナ』を監督した
アレックス・ガーランドが担当していた。

彼らの発するイノセントな魅力が、余計に観る者の心を掻き乱す。
それ故にひどく後味の悪い物語なのだが、
そんな異物感をオブラートに包む演出方法も含めて、
決して「あり得ない」とは言い切れない、
人間の傲慢で、あまりにも欲深い本性を、
これ以上ない強い説得力をもって表現した作品でした。

ネタバレしてから観ても、この作品で観るべき部分の
ほんのさわりでしかありません。
是非ご覧いただきたいと思います。

(オススメ度:90)

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2018.01.19 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

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埼玉のへそ曲がり

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オートバイと
スノーボード。
近ごろ波乗り。

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