マネー・ショート

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この映画は、極東の島国にも決して少なくない影響を与え、
その後に続くギリシャ危機を含めた、世界恐慌を引き起こす引き金となった
アメリカの住宅ローン崩壊を背景とした金融危機、
いわゆる『サブプライムローン問題』、『リーマン・ショック』を、
その数年前に予見していた、実在のトレーダーをモデルにした物語だ。

「華麗なる大逆転」なんて副題が付いているので、
つい、先見性のある腕利きトレーダーが、
バブル崩壊の裏側で大逆転の大儲け・・・みたいな、
痛快娯楽作品かと思って観たら、全然違った・・・

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今作は、ライアン・ゴズリング演じるドイツ銀行に勤める、
金儲けしか頭にない、完全に横道に逸れたアウトサイダーな銀行マン、
ジャレッドがストーリー・テラー(案内役)となって、
多くの人間が絡み合う複雑な話の進行と、
複雑な金融システムの解説をする形式を採っている。
最初はそういったコミカルな演出に違和感を持つが、
だんだんとその演出意図が解ってくる。

監督のアダム・マッケイはコメディが専門の監督さん。
金融を題材にした、このとてもシリアスな物語を、
決して「金融パニック」にはせずに、
分かっていても繰り返し人間が犯してしまう、
“どうしようもないこと” として描いて魅せています。

しかして、そんなシニカルな視点描写だからこそ、
人間の愚かさや、罪の深さ、繰り返される自身への倫理感の問いかけなど、
グッと観る者の奥深い場所に刺さってきます。

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物語はクリスチャン・ベイル演じるファンドマンのマイケル・バリーが、
サブプライム住宅ローンが債務不履行になることを予測することからはじまる。
それはサブプライム・ローン、ひいてはアメリカの金融市場の
「嘘」に気づくことだった。

金融とはもちろん「信用」のことだ。
信用がなければ紙幣はただの紙切れだし、
硬貨もその素材の重さの値打ちしかない。

ビットコイン然り。信用を作り出すことさえできれば、
それは安定した価値であると思われるわけだ。
つまり、たとえ嘘であっても、相手が信じれば「信用」を生み出せるわけで、
サブプライムローンとは、国が保証した信用取引であるにも係わらず、
その実、金儲けに目がくらんだ人間たちが自身をも騙しながら築き上げた、
虚構の塊でしかなかった。

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マイケル・バリーが各銀行に持ち込んだ目論見書が発端となり、
今作に登場する銀行家ジャレッドに、
ヘッジファンド・トレーダーのマーク(スティーブ・カレル)
そして、元銀行家のベン・リカート(ブラッド・ピット)らも、
金融市場の崩壊の可能性に気づくことになる。

この映画のおもしろいところは、
ほとんど詐欺と言っていいようなこの国の「嘘」を見抜く登場人物たちが、
みんな揃って現在の国の在り方や、社会、経済の仕組みに対して
反感や違和感を持つ完全なアウトサイダーばかりだということ。
逆に言うと、そういった常に世の中を斜めに見ている変人だからこそ、
すでに空気のように浸透していた金融システムの歪みに気づけたというわけだ。

そうした国の債務不履行を予見した異能者たちではあるが、
“予言者” では決してない。
その予想が外れる可能性もまたゼロではないわけで、
それが何時起こるのか?までは分からないところが最高の見所だ。

そもそも、主人公達が裏側で買い漁った
『CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)』とは、
株式や債券が暴落したり、債務が返済不能になったときに、
それらを補償する資産が下落した際のための掛け捨ての保険商品だ。
このCDSは、驚いたことに担保証券などの現物を持っていなくても
売買できてしまうので、もちろん元本などそもそも存在せず、
多額の保険金を掛け捨てで払い続けながら、
いつ何時引き起こされるか分からない大暴落まで、
それを維持し続けなければならなかった・・・

破綻しても、日本のように税金で銀行を救ってしまう可能性だってあるし、
そもそも住宅関係の投資商品なので、低リスクで安心して投資できる材料だ。
考え過ぎかだったのかもしれない・・・

そこに至るまでの、観る者の胃にまで穴が開きそうな、緊迫した展開には、
たとえその結末が分かっていても尚、最高にシビれさせられます。

そして、何よりこの映画が伝えたい本当の部分とは、
そのサブプライム・ローンを掴まされた600万人という人たちが、
職を失い、家を失ったという事実。

「サブプライム」とは、プライム(優良層)のサブ(下部)に位置する人のこと。
ローンの貸し付けに際し、信用情報の値の低い人向けの住宅ローンだ。
そもそも低所得者層への住宅の普及を目指して創設されたサブプライムローンを、
証券化して金儲けしていたのはお金持ち達で、
恐慌の引き金を引いたのもその連中なのであるが、
その破綻によって血を流したのは、その金持ち達ではなく、
リーマンブラザースに務めていた普通のサラリーマンだったり、
家族のために家を建てた貧困層の人たちなのだ。

最終的には大金を掴んだ主人公たちも、
その裏側には多くの貧しい人たちの悲しみや苦悩が隠されていることに、
自身の倫理観を見つめ直します。

狂った金融システムを生み出した者たちへの逆襲は、
その狂ったシステムを使うことに他ならない。
つまり、主人公たちもまた同じ穴のムジナなわけで、
民主主義とはほど遠い、資本主義の残虐な一面をこの映画は垣間見せます。

もしもこんな残酷な物語を、ドキュメントで見せられたら、
戦争モノよりも恐ろしい映像になっただろうと、背筋に冷たいものが趨ります。

というわけで、シニカルなセンスの良い嫌みの効いた、
極上のサスペンスを観るつもりがなくても、
サブプライム・ローン問題の核心を勉強するには
これ以上の教材はないと言うほど、金融システムの仕組みの説明も充実しており、
池上彰の番組を観る感覚で観ても充分楽しめる作品であります。
  

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2016.07.15 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

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