真摯さについて

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もう二年ほど前になるが、いつもBMWのオートバイでお世話になっている
原サイクルの原 豪志さんが、ご自身のブログかSNSで、
ベクターグライドの秋庭将之さんと一緒に
ツーリングに出かけている投稿をお見かけした。

ほどなくメンテナンスで原サイクルにお邪魔した際にそのことを聞いてみると
原さんはまったくスキーをされないのでスキー事情には疎く
「秋庭さんって、業界ではそんなにスゴい方なんですか?
 まったく知らないんで申し訳なくて・・・」と
逆に秋庭さんに関して取材されたりしていた。
そのときに私がベクターグライドや秋庭さんに関して、
「言ったら平 忠彦みたいな人ですよっ!」とか、
あまりに熱弁をふるっていたことにかなり驚かれたようで、
「秋庭さんのGSをピックアップに行くついでに
 食事をすることになったんですけど、へそ曲がりさんもいかがですか?」
とお誘いをいただいてしまった。

原さんも、BMW、ハスクバーナ、国産4メーカーを扱われる
ディーラーの社長さんでありながらモンゴルラリーへの参加をはじめ、
メディアに多く登場するほどその筋ではかなり名の通ったプロ級のライダーで、
僭越ながら私が師範代と仰ぐお方だ。

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そして秋庭さんも私と同じR1200GSにお乗りになっている
オートバイ乗りでもあり、
しかも先日、MOTO NAVIの企画でオートバイ乗りなら
誰しもが一度は乗ってみたいと願うであろう『ホンダ RC213V-S』に
なんと茂木サーキットでお乗りになっておられるわけで、
そんな濃い目の方々からお誘いを受けて断る理由など私にあろうはずもなく
図々しくもお邪魔させていただくことにした。

スキーの話はもちろんのこと、オートバイのこと、そして
秋庭さんはモノ作りのプロデューサーというお立場、
原さんは販売会社の社長というお立場での仕事の話など、
とても興味深い話をたくさんお聞かせいただくことができた。

もちろんここには書けないような話も含め、
そのすべてをお話しすることはできないが、
何も書かないとただの自慢話に終わってしまうので
主に秋庭さんとのやり取りからいくつか披露しようと思う。

中でも私の印象に残っているのは、
「ベクターグライドと他のブランドとの差別化って、何か考えているんですか?」
と私が聞いたときのこと。

秋庭さんはそもそも「差別化」の意味が分からないといった表情で
明らかに私の質問の意図が読み取れない様子であった。
そこで「ベクターグライドの特徴って何ですか?」と質問を変えたところ
「私の思う“走る”スキーのこと」
要約するとそういった答を返してくれた。

つまり、一切の比較論のうえにベクターは存在していないという意味だ。

「アソコがそこを狙っているから、私はソッチ」みたいなマーケティング的な
他ブランドとの相互関係にはなく、あくまでも秋庭さんの思い描くスキーを創ることが
すべての目的の根幹にあるわけで「他にない」という観点では意識はするものの
どれかに似ているとか、どのカテゴライズに入るのだとかに
ほとんど意識は向いていないというわけだ。

マーケティング手法によって、多くの人々にそのブランドの意志を伝えたり
ブランドの価値を高めたりするのが私の仕事であるわけなので、
すぐにそのモノ自体をマーケティング的に計ろうとして
「違うものであること」という差別化の作業や、
「そこが市場に求められているから」といったニーズが
いつも発想の出発点になってしまう。
(よって「スノーサーフ」という差別化の定義を置くことで
 自らの特徴を標榜する手法は良く解るわけだ)

それだけに純粋に「自分の創りたいモノを創る」という何者にも不可侵で
シンプルな思いの凄さに圧倒されてしまった。素直にスゴいことだと思った。

それと、バターナイフとジーニアスが実は同時に開発がスタートされていて
ジーニアスの試作品のロッカーを含むボトムのラインが
秋庭さんの思い描く通りにできず、高価な金型を一旦捨ててまで
発売を一年遅らせたという話の中で聞いた、
どのようにして想像をカタチにするのかという話。

秋庭さんは競技時代に、フランス、オーストリアなど
多くのスキーメーカーとの協業を繰り返された経験から、
自然とシェイプとフレックスに関しての知識を蓄積されてきたのだそうで
スキーのシェイプを見て、そのフレックスを自らの手で確認できれば
乗らなくてもどんな板なのかはすぐに解るのだそうだ。

そんな秋庭さんの頭の中にはいつも複数のシェイプやフレックスが
それこそ無限大に浮かんでいて、時流に流されたり、トレンドを追うことなく
その中から「こう走るスキーがあったら面白い」と
秋庭さん自身が信じる組合わせを適切なタイミングで引き出して、
カタチにしていくのだそうだ。

どのメーカーにだって同じようなプロフェッショナルがいて
同じように想像から新たなスキーを生み出しているのかというと
そういった手法は必ずしもどのメーカーでも行われているわけではなく、
秋庭さんによると、企画、設計、テスト評価、フィードバックが
分業されてしまっており、誰か一人の想像を起点としながら、
分業された各パートにおいて価値観の一貫した製品づくりは
なされてはいないのではないかとのことだった。

つまり、それこそが「滑り手が作り手」である事の最大のメリットであるわけで、
最初に申し上げた「私の思う“走る”スキー」の具現化に他ならないわけだ。

それと、
知らなかったのは私だけかもしれないが、
ベクターグライドのスキーはすべてのエッジが
そのスキーの想定される滑りを実現する状態に最適化されてから
出荷されているのだそうだ。
つまりエッジチューンは基本的に必要ではない。

もちろんそれらはすべて手作業ということになるわけで
「ぶっちゃけ採算あってるんですか?」
という私の質問に秋庭さんはただ苦笑いを浮かべられていたが、

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例の20本限定のMastiffを生み出すためにその倍以上が廃棄されているという
お話を聞くに、そのこだわり方は言わば偏執的ですらあり、私の心象だと
どのモデルもかなりのバーゲンプライスにされているように感じました。
ちなみにそのMastiffのリミテッドエディションですが、
「もう二度とできないと思う」とのことでしたんで、
お持ちの方は絶対に手放されませんように!
(やむなく手放される場合はこちらまでご一報ください!)


そして話は自然とスキーやオートバイの
「これから」に関してのものになっていった。

実はスキー業界もオートバイ業界も、似たような先細りの状況にある。
市場を存続させるためには、スキーを楽しめるスキー場の在り方や、
スキーの楽しみ方を伝える教え方のベースになるものを考える必要がある。

昨今の都市部の若者は四輪の免許すら取らないような時代の中で、
オートバイもまた厳しい局面を向かえつつある。
ちなみに原さんによると日本での新車オートバイ購入者の平均年齢は
50歳を超えているのだそうだ。

あるとき秋庭さんがとあるスキー場のスキースクールで、
子供を叱りつける教え方をするインストラクターを見て、
「それではもうその子はスキーをやらなくなってしまう」と、
いつもは温厚な秋庭さんもそのときばかりは怒ったのだそうだ。

同じように原さんが経験したのは、
とあるライディングスクールを受けて帰って来たお客さんが
「私にはこのオートバイで教わったような乗り方は無理なのでもう手放したい」と
仰った例もあったのだそうだ。

その話のなかで秋庭さんが
「もっと真摯に向き合えればいい」
仰っていたのがとても印象的だった。

真摯。
それは何よりも相手のことを慮(おもんぱか)る姿勢のことだと思う。

やはり人は「上手くなりたい」の前に「楽しみをみつけたい」と思っているはずだ。
だからそのことに真摯に向き合えれば
人ぞれぞれの「楽しみ」を見つける手助けができるはずだし、
スキーもオートバイも多くの人に楽しみを与える存在になれるはずだ。


・・・と言った具合に話はどんどん深度を深め
6時過ぎからはじまった会は11時になってやっとお開きとなった。
実は秋庭さんはアルコールを一切口にされない方で、
原さんもトランポで秋庭さんのオートバイを引き揚げに来るとのことだったので
それならばと私もオートバイで馳せ参じていたことから
三人ともにシラフであったにもかかわらず妙に盛り上がってしまった。

もちろんここに書いた話以外にも、秋庭さんにはAventuraの乗り方を
原さんにはHP2 Enduroの乗り方をじっくり教わったことは言うまでもない。
役得でありましたが、何よりものずごい刺激をいただいたことが
最大の収穫でありました。

そんな貴重な時間をいただいた二人には、心からお感謝を申し上げたい。
ありがとうございました!
また是非ご一緒させてください!
  

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2016.05.30 | コメント(2) | トラックバック(0) | スキー

コメント

へそ曲りさん、羨ましい過ぎる!自分も何度か秋庭さんとBCキャンプで御一緒させて頂きましたが、豪快な滑りとは違う温厚で優しいとても気さくな方でした。「板を踏んで走りを引き出して」と言われていました。
自分ももっと真摯に向き合う姿勢を見習えば、ちゃんとした大人になれますかね。
でも、vector glideのプロデューサーと会食なんて羨ましい〜〜!

2016-05-30 月 12:59:00 | URL | Sugaya #- [ 編集 ]

Sugayaさん

今回は本当にラッキーでした。
秋庭さんも、私が同じオートバイ乗りだったので
同席させていただけたのかもしれません。
人の縁とは不思議ですね〜

そして、仰るとおりにとても柔らかい波動を放つ方でした。
もう少しイケイケの方かと思ってましたので
少々拍子抜けするくらいでしたが、
デキル方はみなさんああいった当たりの優しい感じがありますよね。
見習いたいものです・・・

2016-05-30 月 14:43:58 | URL | 埼玉のへそ曲がり #- [ 編集 ]

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