蜩ノ記(ひぐらしのき)

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邦画はあまり観ない洋物かぶれの私ではありますが、
時代劇は別枠でありまして、気になる作品があれば極力観るようにしている。

中でも現代社会が失ってしまった忠義心や礼節を描いた物語が好きで
そんな良い時代劇に出会うととてもうれしくなってしまう。

とはいえ、時代劇と言えども当たり外れはもちろんあって、
ハリウッド製の娯楽大作への期待から生じる外れたときの落胆ほどには
大きくはないにせよ、当たりの作品に出会う確率はそれ相応に高くはない。
なので、この『蜩ノ記』のような良作に巡り会うと、
ハリウッド作品以上にその歓びは大きくなる。


藩主の側室との不義密通の罪に問われ、切腹を言い渡された戸田秋谷(役所広司)が、
学問に精通していた逸材であったことから10年の猶予を与えられ、
その間に家譜の編纂を命じられとある僻村に幽閉されていた。
その猶予が残り三年となった時、城内での抜刀による傷害事件を起こしてしまった
檀野庄三郎(岡田准一)は、その罪の減刑の代わりに戸田の監視を言い渡される。

そうして檀野は戸田の幽閉されている屋敷で
戸田の妻、織江と、17〜8歳の娘、薫に、10歳の息子、郁太郎と
三年間の共同生活を始めることになる・・・

檀野にはとても戸田が不義密通をするような男には見えず、
そもそも正義感の強い檀野は、その三年間のうちに
家譜の編纂を理由に7年前の事件の真相に迫る。

そして、その事件と無関係ではない自身の藩の行っていた汚職や、
領民へのきつい年貢の取り立てなどに気づかされながら、
やがて戸田に着せられた罪状が、完全なえん罪であることを知る。

しかし、それが明るみに出てもなお、切腹への意志を曲げない戸田には、
先代の大殿とのあいだに、嘘偽りない家譜の編纂によって、
二度とお家を危機に陥れるようなことのないよう、
藩に正しい道筋をつける『武家の鑑』を作り出すという
硬い契りがあったことが語られる・・・

戸田は余命10年のそんな日々を、家譜とは別に、自身の日記として記し続けたのが
夏の去り際に、秋の到来を悲しげな鳴き声で告げる蜩に喩えた『蜩ノ記」であった。


簡単に説明するとそういうお話。
本来ならばここで予告編の動画をご覧いただくのが話が早くて良いのですが、
今作の内容の重さにそぐわない昼ドラの予告編のような安っぽいデキなので
敢えてここには貼らないでおきます。

過去の事件の真相が露わになるというサスペンスでもあるのですが、
お家(組織)のために自身の命を捧げる一人の侍の姿を通して、
お上への忠誠と同様に、近隣に暮らす人々の幸せを守る、
人としてのやさしさと忠義心の間で悩んだり、信じるべき答を出しながら
真義とは何か。人間の存在意義とは何かを問う重厚な人間ドラマになっております。

ネタバレになりますが、中でも好きなシーンは、

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同年代の農民の子 源吉と友情を育んでいた長男の郁太郎であったが、
目付らのきつい締め付けの果てに源吉を殺されてしまう。
それに憤慨した郁太郎は家老に一太刀浴びせるため屋敷に行くと言い出す。
それを聞いた檀野は、それを止めるわけでもなく、
自身の思いとして郁太郎と共に家老の屋敷へと向かう。

郁太郎は家老に対峙し事の真相を直訴するが、
家老の立場上その場では聞き入れられず、
それでも気の済まない郁太郎は家老に一太刀浴びせるため更に前に出る。
それを止めようと立ちはだかった家老の部下を檀野は見事な剣捌きで足止めし
郁太郎に「存分におやりなさい!」と告げる。

もちろん家臣に楯突けば死罪は免れない。
それでも直訴を止めない二人のそうした覚悟を見た家老は、
気持ちは解るとした上で、それでももし自分に刃が向けられれば、
家族や村人にも裁きが下りると郁太郎を鎮める。
それを聞いた郁太郎は「卑怯な・・・」とつぶやき
刀の柄で奉行の腹を鋭く突き悶絶させる。

そのとき檀野は郁太郎の一連の動きを見て「お見事!」と叫び
その場で二人とも刀を置き自分たちの目的が果たされたことを示す。

死を覚悟した上で友人への忠義に尽くすその心意気が素晴らしい。
そしてこの一連の流れのテンポがとても良く、
所作も美しい映像となっておりました。

個人の利益を優先せず、家族や友人、
そして主君に対しての忠義を果たす人間の姿は、
いまやそのほとんどが失われたと言っていいかもしれません。
「昔はよかった」ほど最低な言い訳はないとは思いますが、
こういった清々しいほど純粋な精神に価値のある時代は
観ていて心から羨ましいと思えてなりません。
(まあ、だからこそ映画になっているわけだし、
 実際あの時代がどうだったのかを確認する術もありませんが)


とかなんとか。
自分で言うのもなんですが、なかなか上手いことネタバレせずに
話が出来ました。
これを読んでも尚、観れば楽しんでいただける作品だと思います。
興味が湧きましたらぜひぜひ観てみてください!本当に素晴らしい映画です。
  

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2016.05.27 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

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