オールドテロリスト

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またも数日で読み終えてしまった・・・

村上龍の作品はいつもそうだけど、映像を頭に浮かべやすい表現がされていて、
文学と言うよりも映像作品のような感覚があるのですが、
この作品ではその傾向がより顕著に顕れていて、
私のような中途半端な本読みに、とても向いている。
おかげでサックサックに読み進んでしまいました。

本の残りページが明らかに少なくなっていくのが、とても寂しく思えるほど
(いつもは残りが薄くなると安堵してしまう)のめり込んで読めましたが
本当の本読みの方からの評価となると、果たしてどうなのでしょうか??

ずいぶんと前になりますが、アメトーークの『読書芸人』で、
ピースの又𠮷が、オススメの10冊の中に村上龍の『コインロッカーベイビーズ』
挙げていて、そのことにも驚いたのですが、それを見た共演者のオードリー若林が
「疾走感あるもんね」と言っているのを観て、
むしろその台詞に驚いてしまった。

“疾走感"
その昔に本を評するときなどによく使われた言い回しだけれど
ずいぶんと久しぶりに聞く表現だと思った。

疾走感の意味するところは、要はスピード感のある物語だということだろう。
疾走感とは言い得て妙だが、よくよく考えてみるとそれの指す意味はかなり曖昧だ。
だから、逆説的にこの疾走感が当てはまる作品というのは
面白いけど底が薄いともとれるのかもしれない。
もしくは、深すぎて底が知れないのかのどちらかだと思うが
いずれにせよ文学的というよりは、エンターテインメントとして
とても良くできた作品に与えられる称号だと思う。

そして私はそういった作品が大好きだ。


大きな戦争を経験していて、
国家に対して、羨望も希望も、
そして失望も絶望も経験してきた今の老人たちが、
どういう思いで、今のこの国の現状を眺めているのか。


原発再稼働反対や、安保法制反対の、国会前での大規模デモなど、
私と同年代の連中よりもずっと若い世代の方々が、
この国の政治や経済に様々な意見や批判を口々に展開されているのを
近ごろ多く見かけるが、まさに戦争を体験した老人たちは、
私たちと同じ、昨今の状況にありながら、
どういう思いでこの国のことを見つめているのであろうか?

「きっと憤慨している」

というのが村上龍の推論だ。

周到に取材を重ねたうえで執筆しているわけだから、
もしかしたら本当に憤慨している老人が多いのかもしれない。

医者や年商100億円を超える企業の経営者、弁護士、官僚など、
知識も、資金も、有り余るほどあって、
何よりこの国を憂うが故に抱く強い「怒り」を維持し続けた人間が、

この国を今一度焼け野原に戻すべきだ
と考えることには何の違和感もない。

先日、弊社の顧問弁護士の先生に相談する件があって、
たまたまだがそのあとに雑談をさせていただく機会があった。

その方は70歳で、いつも自らBMWを運転されて颯爽と現れる。
まさにこの作品に登場するオールドテロリスト像そのものだ。
そして、やはりこの国の行く末を、同じように案じておられた。
中でも印象的だったのは近ごろの若者は、ではなく、近ごろの弁護士は
というお話しの中で仰られた「品位の欠如」という言葉だった。

「品位」

こういった自身に課すことで成立するルールというのは、
課すことを避けることもできてしまうので、
片方がその採用を避けてしまった場合、
両者間にそのルールが成立しない事を意味する。

こういった品位に欠けるような人間に対しては、
勝ち負けに係わらず「悔しい」ではなく「悲しい」という感情に嘖まれると、
そういうお話しをされていた。

そんなお話しを窺うと、余計にここに登場するオールドテロリストたちの
悲しみが理解できるような気がしました。

オールドテロリストたちはその行動や意志を歴史の証言として残すために、
50代の元雑誌記者で、担当雑誌の廃刊とともに女房子供に逃げられた
うだつの上がらない文字通りの敗者をその証人に選ぶ。

なぜその男を選んだのかも明かされていくわけだが、
自身の信じた正義が正義として、価値あるものとして残されてこなかった
それ故に敗者となってしまった50男と、
革命をなさんとし、今一度勝者を入れ替えようとする老人たちとの生み出す
コントラストによって、今作はこの国の真の病巣を浮かび上がらせています。

老人とはいっても、そのテロの方法は科学的でいて論理的、
そして、満州事変にまで遡る深い憤りの歴史は、
往時のドイツ製の巨大兵器までをも現代の日本に登場させ、
その展開の速さと目眩を誘うような怒りが現出するテロ行為の描写は
明らかな恐怖と残虐な狂気を、一文字一文字の活字から確実に想起させます。
そうした矢継ぎ早な展開がまさに疾走感を伴って一気呵成にラストシーンまで
走り抜けて行きます。

ただ、理知的で欺瞞に満ちた老人たちの言い分に、共感はできても、
すでに体力的には到底無理だろうと思えるような、少々理屈に合わない行動もあって、
残念ながらリアリティには欠けていると感じる部分も多かった。

それと、
今作が登校拒否や引き籠もりの少年たちが、IT技術などを駆使した事業を展開し、
自分たちで職業訓練施設までをも持ち、最後には全員で北海道に移住し
独自の統治国家といっていいコミューンを造り上げるという
2000年に刊行された『希望の国のエクソダス』と地続きである設定なのだが、
設定だけで、あとはまったくその事とは無関係に話が進んでしまうのが、
村上龍ファンとしてはがっかりさせられてしまった部分。
無関係なら最初からその設定を使わなければいいのに。
最後まで何か大きな展開があるんじゃないかと期待しちゃったよ。

というわけで、高尚な小説などでは決してないが、
観る者の肩の力を抜かせながらも、提起された問題や、少しずつ明かされる謎に
考えさせられたり、時に身につまされながらも、その答を知りたくて先を急いで
しまうような、よくできた海外サスペンスドラマを観るような気分で読むのに
とても向いている。そんな一冊だと思います。
  

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テーマ:村上龍 - ジャンル:小説・文学

2015.10.05 | コメント(2) | トラックバック(0) |

コメント

とても楽しそうなキャンプですね〜

仲間とこんな時間を過ごせたらサーフィンもまた違った楽しみが出来ますね?

千葉北エリアにはあまり来ないですか?

面白いエリアもありますので是非来て下さい。

今年ももうすぐスノーシーズンが来ますのでその前に良い波に乗りましょう!

2015-10-07 水 07:51:35 | URL | DAN #- [ 編集 ]

DANさん
一宮周辺にはよく行きますよ。
でも、今年は茨城のほっこり具合に癒されてしまい、
近ごろあまり行っていません・・・
もし見かけたら是非お声がけください!

2015-10-07 水 11:25:17 | URL | 埼玉のへそ曲がり #- [ 編集 ]

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