夜に生きる

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マッドマックスの描く荒廃した未来社会を描いたSFでなくても、
西部劇にしても、やくざ映画にしても、マフィア映画にしても
未だになくならないのはやはり、アウトローたちのヒリヒリするような生き様に
我々が心の奥底で憧れているからではないかと思う。

こういう生命保険とか、入院保険とかとは一切無関係な世界。
日常生活の中に生き死にが係わってくる不安定な世界。

できればそういったリスク管理以前の社会情勢は御免被りたいのだが、
そういった世界を受け入れ、尚かつそこを平然と渡り歩く男達の姿に、
魅了されてしまう自分がいることも確かだ。

舞台は禁酒法時代末期のボストン。
ジョー・コフリンは銀行強盗を繰り返す札付きのワルであったが、
誰かから指図されることを嫌い、ギャング達とは距離を置いていた。
しかし、ボストンを二分するギャングの一方のボスである
ホワイトの情婦であったエマを本気で愛してしまったことから、
ジョーは否応なくギャングの抗争に巻き込まれていく。

二人の関係はすぐにホワイトにバレてしまい、
ジョーは命は取りとめたものの逮捕され、エマを死なせてしまう。
3年の服役を経て出所したジョーはホワイトへの復讐を胸に、
誰の指図も受けないという自身の信条も捨てて、
対立するもう一方のボスであるイタリア系ギャングのマソの元へ向かう。
すでにボストンを追われ、フロリダで勢力を拡大していたホワイトを追い、
ジョーは密造酒の生産が盛んだったフロリダのタンパの市場を仕切るように
マソに命じられる・・・・・

とまあ、ざっとこんなあらすじなのですが、言ったように、
今作の見所はそんな物語の展開以上に、ジョーという男の生き様の方にある。

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新天地であるタンパで、
ゾーイ・サルダナ(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー)演じる
グラシエラと出会い、家族を築き、密造酒の製造以外にも、
ギャンブルの合法化を企んだり、ビジネスマンとしても才能を発揮する。
もちろん敵対する相手には強硬な手段も厭わないのだが、
どこか冷徹になりきれない、心やさしい男の姿もジョーには同居していて、
自身の信義を通すため、ボスであるマソにまで反目してしまう。

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そんな、野心と安定という背反するものを同時に望むが故に、
敵を増やしてしまい、結果不安定さを招いてしまうのは、
現代社会のビジネスシーンでも同じかもしれない。

ただ、そのツケの代償は、誰かの命で払わされる部分が現代社会とは大きく違い、
それが自らの命ならばまだしも、大切な者の命で賄われる可能性もあるところに
それぞれの覚悟と生き様が交錯していく。

そして、それはまさに因果応報とも言うべき連鎖反応を繰り返し、
「悔い改めよ」という聖書の一節とともに、
ジョーの身に跳ね返ってきてしまう・・・

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原作は「ミスティック・リバー」のデニス・ルヘイン。
ザ・タウン』のベン・アフレックが監督・主演を務めている。
アフレックの初長編監督作「ゴーン・ベイビー・ゴーン」も
同じルヘインの作品なのだが、そもそも今作の映画化権を持っていたのは
誰あろう、ルヘイン原作の『ミスティック・リバー』に主演した
レオナルド・ディカプリオ。
そしてディカプリオは友人であり、「ボストンと言えば」のアフレックに
この話を持ちかけたのだそうだ。

さておき、命のやり取りを繰り返すカッコイイ男が見たくなったら、
是非今作を思い出していただきたい、なかなか隠れた良作であります。
(オススメ度:60)

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2018.04.13 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

バリー・シール/アメリカをはめた男

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トム・クルーズとダグ・リーマン監督が
オール・ユー・ニード・イズ・キル』に続き、再びタッグを組んだ
『バリー・シール/アメリカをはめた男』。

希代のヒットメーカーであるこの二人が、
なぜこの実話を選んだのか?
予告編を観ればすぐに分かる通りの「嘘みたいなホント話」でありました。
要は「すべらない話」だ。
それだけ奇天烈で摩訶不思議なことが、次々に展開される。

何より、バリー・シールという男の、
CIAと麻薬王を相手取っても平気でいられるその肝っ玉のデカさに感服する。
普通なら悲劇にしかならない物語が、これだけの喜劇になっているのは、
その肝っ玉の大きさに正比例しているからだ。
極度に幸運であることもあるし、
映画の中では面白おかしく脚色されているのだろうが、
それにしても、この男の卓越した危機管理能力と、
あまりの当てずっぽうさには心から恐れ入る。

そして、こんな喜劇を可能にした世界情勢や、政治的な背景が興味深い。

まさに「敵の敵は味方」という妄想から、1986年に、
ニカラグアの政府転覆を図るテロ組織をアメリカ政府が支援していた事が発覚し
国際的なスキャンダルとして騒がれた「イラン・コントラ事件」。
まさにバリー・シールはこのときの武器の空輸を行っていた張本人。

表だってできる作戦ではないため、軍ではなく民間人が登用されていたわけだが、
張り巡らされていたレーダー網のかいくぐり方などを、
CIAは予めバリーに知らせて密輸させていた。
そして、その帰り道に麻薬を積んで帰って来ていたというわけだ。

なんとも、開いた口が塞がらないが、
それが本作の原題である『American made』の真意。
まさに、超大国アメリカならではの被害妄想がなければ成り立たない話だ。

歴史上の話ではなく、たかだが30年前の話。
スノーデン』と同軸に語られるべき問題で、
ここでもこの世界はまだまだ完成にはほど遠いことが暴露されているし、
絶対に完成などしないことへの警鐘でもある。

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この画像はバリー・シール本人。
トム・クルーズとは似ても似つかないが、
ふてぶてしくも、どこか愛おしいような人ったらしな所は見てとれる。
そんな愛嬌たっぷりなバリー・シールの姿を、
トム・クルーズの人を惹きつける魅力と上手いこと混ぜ合わせたことで、
本当は心臓が締め付けられるようなシリアスなサスペンスであったはずの物語を、
この嘘みたいなドタバタ喜劇にまで仕立て上げた
ダグ・リーマン監督の手腕にはまさに脱帽としか言いようがない。
(オススメ度:70)

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2018.04.06 | コメント(2) | トラックバック(0) | 映画

キングスマン ゴールデンサークル

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キングスマン』の続編『ゴールデンサークル』。
時間がとれなくて映画館に観に行けなかったのですが、
行けなくて良かったです・・・と思える失敗作でありました。
誠に残念です・・・

毒っけがすっかり抜けてしまい、
こうなるとただの悪ノリでしかない。

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増えすぎた人類を淘汰するため、通信料無料で配られたケータイに仕込んだ
殺人音波によって人間同士を殺し合わせる計画。
それを回避するため、方舟に乗って逃げる金持ち達は、
頭に殺人電波を回避するための通信機を埋め込んでいて、
それをキングスマン達は逆に操って爆発させ、悪い金持ち達の頭を吹き飛ばし、
一網打尽にするというシーンが、前作『キングスマン』の一番の見せ場で、
頭が吹っ飛ぶと虹色の煙が上がるという設定によって、
一歩間違えればグロくなってしまうシーンを
まるでアートのように魅せてくれていた。

それ以外にもスパイアクションでは避けられない殺人シーンを
見事な演出でカッコ良く魅せてくれていたのに、
続編の今作ではそんなグロいシーンも、
かといってアートなシーンもほとんどなく、
ただ淡々と真面目な悪ノリだけを見せられるという、かなりがっかりな展開。

キックアス』と同様に、この監督さんは続編になると
どうしてこうムダにマジメな方向に舵を切ってしまうのでしょうか?
それとも、子供を含めた多くの人に見せようと企む、
プロデューサーの意向なのでしょうかね。
ブラックな魅力がすっかり影を潜めてしまう・・・

やはりこのテの映画は拡大させずに、
R指定でも何でも、少数館だけの公開に留めた方が
面白いものになるのではないでしょうかね。
もちろん、そうすれば興行収入は減るので、
制作費が取れずに、今回のような豪華な出演者たちを
揃えられなくなるのでしょうが、それでも私はそっちの作品が観たい。

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唯一笑えたのが、誘拐された本人役で出演している
エルトン・ジョン。
これの意味のなさ加減はかなりアートでしたが。
(オススメ度:50)

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2018.03.30 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

マザー!

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ちょっとばかり、ショッキングな映像が下に入りますので、
ホラーとか、スプラッターとか苦手な方は見ない方が良いかもしれません。
念のため。

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人気女優ジェニファー・ローレンス、
有名個性派俳優のハビエル・バルデム主演で、
ミシェル・ファイファー、エド・ハリス共演、
しかも、監督は『ブラックスワン』の ダーレン・アロノフスキーという
これだけ豪華な顔ぶれが揃った作品が、日本で公開“禁止”になるなんて、
いったいどんな映画なのか???と興味が沸いてしまうのは私だけではあるまい。

オールド・タイマーの私としては、
デビット・リンチの『ブルーベルベット』や、
デビット・クローネンバーグの『裸のランチ』が、
当時醸し出していた問題作具合を思い出してしまい、
尚のこと観たくて仕方がなかった。

のですが、コイツは間違いなく悪い意味で「問題作」でありました。

我が家を楽園のようにしたいと願う妻(ジェニファー・ローレンス)と、
スランプの詩人の夫(ハビエル・バルデム)。
ある日、夫のファンだという男が訪ねて来て、
酔いつぶれた男は泊まっていき、翌朝、
断りもなく彼の妻を家に呼びよせてしまう。
それを聞きつけた息子二人もやって来て、
突然、夫婦の家で遺産相続の件で揉め始めてしまう。
そうしてもみ合いになった挙げ句、弟が兄を撲殺してしまい、
どういったわけか、夫婦の家で葬儀が行われ始め、
次から次へと弔問客が家に上がり込み、勝手に過ごし始めてしまう。

まだリフォーム中の家が、赤の他人たちによって踏み荒らされていくことに
我慢ならない妻であったが、夫は、そんな隣人たちにも
惜しみなく分け与えることを妻に懇願(強要)し、
妻はストレスを抱えながらも隣人たちをもてなそうと奔走する・・・

・・・・と、ここまであらすじを書いてはみたが、
これ以上書いても意味がないと思い直したのでここでやめる。
やはり、この物語にほとんど意味などないのだ。

最初の30分程度は、不穏ながらも
現実と受け止められるような物語が進行しますが、
途中からあからさまに世界観が非現実方向に歪みはじめ、
一旦の平穏を経て、最後の30分は、更に不可解で不愉快な、
見る者を単に刺激するだけの場面がジェットコースターばり連続する。

しかもそれらが「夢オチ」や「クスリでトンだ状態」などでないことだけは
観る者にはっきりと伝わって来るので、
まったくもって「救い」がないことが余計に嫌な感覚を増幅する。

監督は「これは環境破壊へのメタファーだ」とかなんとか
仰っているようなのですが、
とにかく全編メタファーやら、シンボルやらのオンパレードで、
これでもかと象徴世界を見せ続ける。

んで、ネタバレするつもりで書くと、
どうやらこれは旧約聖書を下敷きにした物語のようで、
妻は地球(世界)で、夫は神、隣人たちは人類のシンボル。
神は隣人を愛せと説くが、人間たちはそれを良いように解釈して、
次々に楽園を破壊してゆき、しまいには神の子さえも殺してしまう。

そうした世界を、現実世界、しかも一軒の家の中だけで表現した、
ある意味ソリッドシチュエーション・ホラーでもある。

上のポスター画像は日本用のものだが、
これは実はトリミングされていて、

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こちらが実際に本国で使われたポスター・・・
母なる地球は、自らの心臓を神に捧げてまで、
人間たちを勝手気ままに生かそうとする様を描いている(ようだ)。

こんな意図で撮られた作品なので「公開禁止」ではなく、
(「公開できなかった」でも言い過ぎ)
単館上映では元が取れないほど版権が高く、
商業的に「公開しなかった」くらいが正しい表現だと思う。
同業者としても「公開禁止」は言い過ぎだと思う。ヘタすりゃ詐欺だ。

「賛否両論」とか言えばそりゃそうなんでしょうけど、
たとえ賛成1:9反対であってもそう言えてしまうので、
これは「物も言いよう」ってやつだ。

実際アメリカでも大コケしたらしい。

ジェニファー・ローレンス主演で日本劇場未公開作品の『JOY』は、
なんで公開しなかったの?と言いたくなるほどの良作だったので、
ちょっと、いやかなり期待していた自分もいたのですが、
今回は完全にやられました。レンタル代返せレベルでした。
(怖い物見たさの方にだけオススメ度:10)
  

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2018.03.23 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

ブラックパンサー

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シビル・ウォー』で父親を目の前で失ったワカンダ国の王子ティ・チャラ。
彼はワカンダの王だけが継承できる伝説の守護神
『ブラックパンサー』でもあった。

『シビル・ウォー』では、超人的な強さの秘密は謎のまま一切明かされず、
かなり唐突に現れたブラックパンサー。
単独作となる今作でいよいよその秘密が明かされるワケなのだが、
物語の核心は、ブラックパンサーの、というよりも、
ワカンダ国の秘密が明かされることの方にある。

永らく秘密とされてきた超発達した文明をもつ国を、
亡き父に代わり、引き継ぐこととなった若き指導者。
世界中が欲しがるであろう超資源『ビブラニウム』と、
それを利用して発達した科学技術は、利用の仕方次第では
世界中の幸せにも、人類を滅ぼすことにも繋がる高度な文明。

存在を明かせばワカンダ国自体に危険が迫るわけで、
その技術を混沌とする世界に対して、隠し続けるべきか、
活かしていくべきかで葛藤する若き国王の姿や、
その王座を狙う者との戦いを描いたヒーロー活劇だ。

ただ、今作がそんな荒唐無稽なコミックヒーローを
ただ実写化しただけの映画かというとそうでもない。

先日行われた第90回アカデミー賞授賞式において、
マイノリティたちへのハラスメントを含めた差別への意識変革を促す
スピーチや演出などが、とても目立ったのが印象的でした。

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『ブラックパンサー』は、今年の2月全米公開なので、
今回のアカデミー賞のノミネート対象外であるにも係わらず、
そんな業界の流れと呼応するように、
主役のチャドウィック・ボーズマンはレッドカーペットでも注目され、
授賞式の中でも司会者が今作が大ヒットしていることに触れるなど、
強めにフィーチャーされていました。

人によっては「オバマ勝利以上のインパクト」とも言われるほど、
アメリカでは社会現象レベルの大ヒットを飛ばしているのだという。

それは、「黒人たち自身が、黒人が主役のスーパーヒーローでも
成功を収められることを映画制作者たちに知らしめるための行為として、
劇場に足を運んでいるのだ」とも言われている。

女性が主役のスーパーヒーロー、『ワンダー・ウーマン』も同じように、
女性の地位向上などへの共感性とともに受け入れられているようで、
主演のガル・ガドットもボーズマン同様に、ノミネート作品もないのに
アカデミー賞授賞式ではかなり目立っていた。

そうしたことは、「白人男性が主役でなければヒットしない」という、
ハリウッドの暗黙の了解を打ち破る
歴史的な出来事だと受け止められているのだそうだ。

これはスターウォーズ新三部作の主役である、
レイとフィンにもそのまま当てはまる。
マイノリティに光を当てることは、
すでにハリウッドの新常識となりつつある。

マーベルは次に『ルーム』でアカデミー主演女優賞に輝いた
ブリー・ラーソンを主役に起用した女性スーパーヒーロー
『キャプテン・マーベル』の制作を発表しており、
少なくともこうした流れはとうぶん続くものと思われる。

なので、『ブラックパンサー』をただのスーパーヒーロー活劇だと思わず、
現在のアメリカのもつ重要な側面だと思って観た方が、むしろ面白いと思う。

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もちろん、『マーベル・シネマティック・ユニバース』好き、つまり、
アベンジャーズ好きの方にとって『ブラックパンサー』はマスト・ムービー。
今作はいよいよ4月に公開される
『アベンジャーズ/インフィニティウォー』の前夜祭とも言え、
上記のようなコムズカシイことぬきに、観なければならない作品でもあります。

(アベンジャーズ好きでない方でも、オススメ度:60)
  

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2018.03.16 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

シェイプ・オブ・ウォーター

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パシフィックリム』の、というより、
今回は『パンズ・ラビリンス』の監督、と言った方が適切だろう、
ギレルモ・デル・トロ監督作品『シェイプ・オブ・ウォーター』を観てきました。

『パンズ・ラビリンス』を観た方なら、ギレルモ・デル・トロという人が、
目を背けたくなるような不都合で違和感のある出来事を、
ファンタジーで包み込むことで痛みを緩和しながら、
さらにその違和感を際立たせることに長けていることをよくご存じだろう。

今作でも、あらゆる枠や既成概念を超えて、
一歩間違えれば・・・という、ある種ギリギリの世界観を貫き、
様々なタブーに挑戦したからこそ描ける「純粋さ」を、
観る者に強く深く訴えかけてくる。

肌の色、国籍、ジェンダー、そして、単純な見た目。
今作でも『ブレードランナー2049』にあったような、
人間の最も愚かしい行為である、差別行為が、今作品の根底にも敷かれている。

主人公の女性は、
幼児時代に親から虐待を受け声を失い、川に捨てられていた孤児。

実験体としてアマゾンから連れて来られた半漁人と、
様々な偏見と差別に遭ってきた自分と一体何が違うのか。
声を失った女性は訴えます。

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半漁人との“恋愛”、そして“セックス”という、
ギレルモ・デル・トロ以外には誰も描かないであろう性愛描写
(なんていうほどグロいわけではなく、
 かなり美しいシーンになっておりますのでご安心ください)を通して、
外見では見つけることのできない人間の本質について、
観る者に響かせ、一瞬にして多くを考えさせられます。

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ラブロマンスという純粋な世界との対比として、
忌むべき異形の実験体として“彼”に虐待を続ける、
圧倒的で純粋な“差別の権化”が、愛し合う“二人”に迫ります。

その男の虐待の理由は、単に田舎町にある研究所から
さっさと都会に転勤したいという単なるエゴでしかない。
そして、国家というエゴの塊のような価値感も、
彼の命を、そしてその存在を脅かし、
差別意識の根源をそれとなく観る者の前に配置していきます。

そんなやりとりによって、
ハラハラさせられるようなサスペンスとしての展開も多く用意されており、
何より、『パンズ・ラビリンス』のラストシーンに代表されるような、
この監督の、時に凍てつくような残酷性と悲劇性を知る者であれば尚のこと、
この愛の物語がどのような結末を迎えるのか、
最後の最後まで予断を許さない展開となっておりました。

さすがはギレルモ・デル・トロ、
あからさまに倒錯した世界だからこそ、物事の本質が浮かび上がる。
恐ろしくも美しい物語でした。

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ところで、先日の第90回 アカデミー賞授賞式において、
今作は作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞の4部門に輝いた。
そもそもSFやホラーといった作品が、アカデミー作品賞を受賞するのは、
ちょっと考えられないような出来事でした。

今回の授賞式では、例の大物プロデューサーのセクハラ問題が引き金となり、
役者だけでなく、スタッフや、描かれるべき主題として、
女性や黒人の登用を多く望む声などが、受賞のスピーチでも多く発せられた。
そういった社会的、政治的背景も
今作の作品賞受賞に大きく影響したのかもしれない。

だからこそ、そういった社会問題を描く上で、
そこに寓話を用いるというギレルモ・デル・トロ独自のスタイルへの
関心が高まったようにも思う。
(オススメ度:80)
  

テーマ:映画レビュー - ジャンル:映画

2018.03.09 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

amazonプライム オリジナル『グランプリドライバー』

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いよいよ2018年シーズン開幕まで1ヵ月を切り、
まさにいま、バルセロナ合同テストの真っ最中。

そんな絶妙なタイミングで、
2017シーズンのマクラーレン・ホンダのプレ・シーズンを追った
ドキュメンタリー『グランプリドライバー』を観ました。

2015〜16シーズンと、
2年にわたり苦しいシーズンを過ごしたマクラーレン・ホンダ。
それと同期するように、30年以上もマクラーレンを牽引して来た、
闘将ロン・デニスが、株主から事実上更迭されるなど、
歴史あるF1チームであるマクラーレンは、昨年、
大きな変革の時期を迎えていました。

車名もそれまでロン・デニスの興したチーム名を残した『MP4-31』から、
『MCL-32』に改められ、その変革の様は、
3年目にいよいよ復活する(であろう)ホンダエンジンに合わせた、
常勝チームであるマクラーレンの復活をも意味していました。

そして、マクラーレンの秘蔵っ子、
新人ベルギー人ドライバーのストフェル・バンドーンの登場など、
題名の『グランプリドライバー』が意図するように、
マクラーレン・ホンダの復活劇と、
新人ドライバーの活躍、もしくは苦闘を描く“予定だった” のだと思う。

ご存じの通り、2017年シーズンの結果も惨憺たるものとなってしまい、
昨シーズンをもって、マクラーレンとホンダは袂を分かつことになりましたが、
今作は、奇しくもそれが決定的となっていった内情を
映し出すことになってしまいました。

マクラーレンとホンダの提携が、
契約期間の満了を待たずに解消された背景には、
ホンダエンジンの不甲斐なさが筆頭に挙げられることは間違いのない事実。
2シーズンを棒に振ったあとの「今シーズンこそ」の思いが強い中、
「また今年もか・・」という落胆は想像を超えるものであったはずで、
実際そういった場面をこれでもかと映し出します。
ですので、ホンダファン、もしくは日本人からすると、
かなり辛辣な内容となっております。

ホンダ側のインタビューがほとんどないことなど、
日本人からすれば、公平性に欠ける意図的で悪意ある編集に感じますが、
それを差し引いても、上級スタッフから、一介の技術職に至る人間までが、
マクラーレンという歴史あるチームへの責任感を持ち、
飽くことなく勝利を渇望する姿がとても印象的でした。
「結果がすべて」という当たり前のことをできなかったホンダの責任を
日本人でも感じる事ができると思います。

やはり甘い世界などではではないのだ。

そんな、激しい渦中にあったマクラーレン内部に、
ドキュメンタリー・カメラが入ることが特別に許可され、
秘密だらけで、今まで決して外からは窺い知ることができなかった
F1チームの内実が、はじめて公開されることとなった、
かなり貴重なコンテンツです。

Amazonプライムで、全4話絶賛配信中!
  

テーマ:F1グランプリ - ジャンル:スポーツ

2018.03.02 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

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埼玉のへそ曲がり

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