FC2ブログ

ドクター・スリープ



doctorsleep2.jpg

スティーブン・キング原作、というよりも、
スタンリー・キューブリック監督作品と言った方が賢明だろう
『シャイニング』のその後の世界を描いた(と言われる)
『ドクター・スリープ』。

1973年公開の『エクソシスト』が近代ホラー映画の始祖だと私は思っているが、
その7年後の1980年に『シャイニング』は公開された。
心霊現象などをベースに描かれているという意味では
確かにホラー(またはオカルト)映画なのではありますが、
理由や原因の捉え方以上に、
一人の人間が正気を失っていく不条理な様子を描くことに焦点を当てた、
ほぼ独自と言っていい世界観を持たされた作品だと思う。

もちろん、キューブリック自身にホラーだのオカルトだのと言った
ジャンルへの思い入れなどはなく、
彼がチャレンジするに値する新しい世界観を生み出すことへの情熱の方を
強く感じさせる作風でありました。

それだけに、ホラー界の巨匠スティーブン・キングは、
『シャイニング』の作風がことのほかお嫌いなのだそうだ。

そんな『シャイニング』の続編と聞かされたら、
この際、嫌な予感しかしないのではありますが、
どういったわけか札幌のノブが観ろ観ろうるさいので、
観ておくことにした。

doctorsleep1.jpg

観終わった今、改めて思い直してみますと、まず思うのは、
これは明らかにスティーブン・キングの新作であるということ。

『シャイニング』では、心霊と交信する力と、
同じ力を持つ同士は離れた場所にいても通じ合えるテレパシーが
「シャイニング」と呼ばれる特殊能力として描かれていたが、
『ドクター・スリープ』ではそれ以上の能力についても描かれていたり、
ジャック・ニコルソンが演じたジャックのパーソナリティについても
言及されている。

つまり、スティーブン・キングが『シャイニング』で描きたかったことの
ほとんどすべてが、この『ドクター・スリープ』では描かれている。
というよりも、キューブリックが意図的に削除してしまった部分が、
“再収録”されていると言った方がいいだろう。

なので、『シャイニング』と『ドクター・スリープ』は
登場人物と舞台は同じでも、まるで別の物語だと思って観た方がいい。

私は言わずもがな、キューブリック信者なので、
あのときの追体験を期待しておりましたが、
と言ったわけでそれは叶わなかった。

doctorsleep3.jpg

海外版のポスターを見ればそれは明らか。
はっきりと「スティーブン・キング作」と記載されております。
日本版のポスターの、嘘ギリギリの記載を見れば、
それだけここ日本ではキューブリックの作品としての認知が
高いということなのであろうが、それにしても・・・とは思う。

んで、ノブは私にも同じ虚無感を与えたくて
どうしても観に行かせたかったようだ・・・
まあその気持ちもワカランでもない。

じゃあ『2001年宇宙の旅』の続編である『2010』のように
つまらなかったのかと言えば、決してそんなことはない。
かのマーティン・スコセッシがMCU(アベンジャーズ)作品を評して
「あんなもの映画じゃない」と発言して世間をザワつかせましたが、
「シャイニング」と「ドクター・スリープ」もその話と似た関係にあるように思う。
この場合それは「シャイニング」と「X-MEN」。
それは超能力者同士の戦いという意味で、
ハナからそういうものだと思って観ればとても楽しめる。
緊張感と感情移入できるドキドキ感に溢れる
とても面白い作品に仕立てられていると思う。

ただ、前作と微妙に世界観を共有しているので、
『シャイニング』を観ておく必要がないわけでもないところが悩ましいか。

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週月曜の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
今シーズンの冬の正装も、もちろんGreen Clothing!
今年は何と予約までして買ってしまいました!
  

スポンサーサイト



テーマ:映画レビュー - ジャンル:映画

2019.12.13 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

海外ドラマ『キリング・イヴ』が超絶面白い件について

killingeve1.jpg

WOWOWで放送していた海外ドラマ『キリング・イヴ』が
腰を抜かすほど面白い。

原作はルーク・ジェニングス作のスリラー小説『ヴィラネル』シリーズで、
2018年からアメリカのBBCで放映されている全8話のテレビドラマシリーズ。
今年の4月からアメリカでシーズン2全8話が放送され、
ほとんど時を置かずに日本でもシーズン2が放送された。

ネットフリックスやらアップルTV+やらと、
ネット配信系チャンネルがしのぎを削る昨今、
WOWOWも独占コンテンツの拡充に迫られているとはいえ、
これだけ早く日本で観られるなんてちょっとすごい。

同じくWOWOWで放送されている『グッド・ワイフ』も
大好きなドラマシリーズ(各24話 全7シーズン)なのですが、
こちらはアメリカではとっくの昔(2016年)に放送は終了していて、
しかもすでにAmazonプライムで全話観られるのに、
「2020年シーズン4放送決定」とか間抜けなこといを言っている状況。
(シーズン4は2013年に放送が終了している)
それを考えると『キリング・イヴ』がこれだけ早く観られるのは
何か政治的な理由があるにしても驚きだ。

killingeve3.jpg

お話の舞台はロンドン。
MI5(軍情報部第5課)に勤める犯罪心理を得意とする捜査官
イヴ・ポラストリ(サンドラ・オー)が、ヨーロッパ全土を股にかけて暗躍する
女性暗殺者ヴィラネル(ジョディ・カマー)に
強く興味を惹かれることから物語は始まる。

自己顕示欲が強いヴィラネルは、見つからないようにひっそりと殺すのではなく、
暗殺とは言えないような派手で目立つ手口で、
殺しを楽しむように繰り返すサイコパス。
しかし、その派手な手口とは裏腹に、自分に繋がるような証拠を一切残さない
用意周到さも兼ね備え、そんな派手なのに狡猾な暗殺者に
イヴは犯罪心理捜査官として強く興味を惹かれる。

killingeve2.jpg

そうして、イヴの持ち前の捜査力に加え、
笑っちゃうくらいの楽観主義も合わさって、
捜査当局にもその存在すら幽霊のように不確実であったヴィラネルを、
イヴは捜査に参加してほどなく追い詰めはじめる。

このドラマが面白いのはここからで、
はじめて自分を追い詰めてきたまさに天敵であるはずのイヴに、
ヴィラネルも強く惹かれはじめ、
かなり早い段階でこの二人は顔を合わせることになる。
躊躇なく次々に殺しを続けるのに、なぜかヴィラネルはイヴを殺そうとはせず、
むしろもっと理解しようとしはじめる。
つかず離れずを繰り返すイヴとヴィラネルの関係は
まるで銭形警部とルパンの関係そのもの。

トップレベルの殺しのテクニックを持つ
冷酷な殺し屋であるヴィラネルに追われても、
何食わぬ顔で飄々と過ごすイヴ。

そして、冷徹さを顕す美貌と、
子供のように無邪気な一面を併せ持ち、
どこまでも自由奔放なヴィラネル。

正義の味方である捜査官のイヴだけでなく、
犯罪者でサイコパスでもあるヴィラネルもまた、
非常に魅力的な存在として描かれており、
ついつい二人の“活躍”を楽しみにしてしまう。
ダブル主演のかなり変わったドラマの構成にも注目が集まる。
かなりスリリングでいてユーモアたっぷりであるところもルパン三世的だ。

第1シーズンでは、イヴがついにヴィラネルを追い詰めるところで終わるが、
第2シーズンではなんと、まるで『羊たちの沈黙』の
レクター博士とクラリスのように二人が共闘するという驚きの展開が待っていた!

killingeve4.jpg

2019年エミー賞の主演女優賞に二人ともノミネートされ、
ヴィラネルを演じているジョディ・カマーが獲得したことからも、
悪役のヴィラネルの方にも多くの人気が集まっていることが分かるが、
何を隠そう私もヴィラネル推しの一人だ。
しかも、8話完結というコンパクトでいて、とてもスピーディーな展開がまた面白く、
各話に無駄なところが一切ない、かなり中身が凝縮されているところもステキ。

第4シーズンまでの制作もすでに発表され、
WOWOWさん次第ではありますが、この勢いを維持してくれるのならば、
1年後には日本でもシーズン3を観られるはず!

う〜〜〜〜〜〜〜ん!早く観たい!!!!!!

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週月曜の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
やっぱり今年も買ってしまった・・・俺ってヤツはどーしていつもこーなんだ!
  

テーマ:海外ドラマ(欧米) - ジャンル:テレビ・ラジオ

2019.12.06 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

ブライトバーン 〜恐怖の拡散者〜

brightburn.jpg



地球にカプセルのような乗り物に乗って飛来し、
中から人間の赤ん坊と同じ姿をした生き物が現れ、
子供のいない農夫とその妻に育てられるのは
まさにスーパーマンと同じ。

ただ、その子が与えられた力の重さ、責任の重さを背負い、
その重圧や偏見や差別にとまどい、迷いながらも、
正義感を培いながら、スクスクとまっすぐに成長するとは限らない。

弾丸をも跳ね返し、一切流血したことさえない。
自由に、そして高速で空を飛ぶことができ、
100万力のパワーを持つ。
そんな人間が悪に目覚めたとき、一体人類に何ができるのか。

スーパーマンという誰もが知る存在を逆手に取る。
とにかくシンプルで、ストレートだからこそ、
とてつもなくインパクトのある映画となっている。

「キャリー」のように、学校での度重なるイジメによって、
持って生まれた能力がねじ曲がったカタチで覚醒してしまう
「そうなってしまうのも仕方がないか」
という流れなのかとばかり思っていたが、
この悪のスーパーマンには同情できる箇所など1mmもなく、
映画が始まった途端に一気呵成に悪が暴走しはじめる。

なので、前半はそうなってしまう言い訳を描きながら、
徐々に悪いことが起きる予感のようなものを感じさせてかららの〜ドーン!
ではなく、全編に渡りドーン!〜ドーン!〜ドーン!と波が来る。
まさにシンプルなアイデアだからこそ、
説明不要とばかりに畳みかけて来るノンストップ・ホラー。

それもあってか、残念ながら全体的にかなり粗挽きの印象。
同じ低予算アイデア勝負モノでも、『クワイエット・プレイス』のように
見る者に考えさせるような世界感のある作品かとばかり思っていたのだが、
意外にもゾンビ系のチカラ業のパワープレイ作品でありました。
(オススメ度:残念50)

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週月曜の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
いよいよ12月!!!。そろそろ冬の道具の話をしないとなるまい!
  

テーマ:映画レビュー - ジャンル:映画

2019.11.29 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

ミスミソウ

ミスミソウ1



押切蓮介によるコミックの実写化映画『ミスミソウ』。

冬は長い期間雪に閉ざされ、
コンビニも、カラオケも、レンタルビデオ店もない、
過疎化の進むとある地方の街。
親の転勤で東京からこちらの中学校に転校してきた野咲春花は、
クラスメートから陰惨なイジメを受けていた。

すでに廃校が決まっているため、
担任もイジメの存在を知りながら完全に黙認しており、
それを止める者はもう存在しない。
それでも卒業まであと数ヶ月。春花の両親は
「もう学校には行かなくて良いから、家でじっと過ごしていなさい」と、
学校を休ませることを決める。

すると今度は、春花が転校してくるまでターゲットにされていた
佐山流美が再びイジメの標的にされ、
それを阻止するために流美は春花に学校に来るよう説得に来る。

春花はその要請に応じなかったのだが、
それに逆ギレした流美は、春花の家に火を放って殺すと言い出す・・・

と言う説明と、上に貼った予告編でだいたいの物語は把握いただけると思う。

ただ、それだけのことで家族ごと焼き殺すか???と、
いうのが素直な感想で、とても気になっていた映画だったのですが、
レンタルされるまで観るのは止しておこうと思い直した。

そうこうしているうちにAmazonプライムで観られるようになっていて、
やっと先日観ることが叶ったというわけだ。

んで、実際に観てみると、漫画の実写化というステレオタイプな
想像とは違い、かなりきちんとまとめられている映画でありました。

ミスミソウ3

漫画でこのように描かれたシーンは、

ミスミソウ2

こんなふうになる。
漫画では説明不明なほどに可視化されたその憎悪によって、
「それだけのことで家族ごと焼き殺すか???」という疑問は生まれない。
それを実写化すると原作者が描いた憎悪は
現実というフィルターに覆い隠されてしまう。

謎の宇宙線を浴びたとか、吸血鬼に噛まれたとか、
殺人ウィルスに感染したとかではなく、
やさしく、知性ある両親に育てられた純朴な少女が、
怒りや衝動だけで大量殺人には至らないわけで、
実写化にあたっては、そこへの説明が不可欠となるわけだ。

ミスミソウ4
ミスミソウ6
ミスミソウ5

湊かなえの小説でもよく題材にされておりますが、
閉鎖されているのに、情報だけは過多に流れ込んでくる
地方都市という舞台は、格差社会が問題化する現代において、
まさに盲点と言っていい。

鬱積した気持ちを晴らしたくてもどこにもはけ口がなく、
そういった負の感情はますます増幅され、
内向きに逆流していってしまう。

その内向きなはけ口は、もちろん子どもたちに向けられ、
家庭内暴力となってしまったり、
異常なほどの過保護となってしまったり、
妻と子を残して長期出張に出たまま帰らない夫(たぶん外に別の家族がある)
が、たまに帰ってくると子供が東京の学校に進学することを認めなかったりする。

そうして、子どもたちが学校というさらに閉鎖された社会の中に
スクールカーストという、幼くも残酷な差別を生み出し、
そのヒエラルキーの中に、更に無責任な加害者を生んでしまう。

ミスミソウ8

そうした行き場も、逃げ道もない怒りの感情が、
フツフツと溜まっていき、子どもたちの理性や社会性を吹き飛ばしていく様子が、
短い時間の中でもきちんと描かれていた。

可愛い妹を含めた家族を失った春花が復讐をはじめるのも、
計画的ではなく、刹那に生まれた火花のような衝動であることも
観る者に伝わる演出が施されている。

ミスミソウ7

そして、殺人拳法を身につけているわけでも、
類い希な運動神経を持っているわけでもない少女が、
自暴自棄になった結果、捨て身の覚悟で向かっていったからこそ、
あれだけの人数を相手に立ち回れたこともきちんと整頓されており、
製作陣の高い技量を感じさせてくれた。

そこに説明がつきさえすれば、あとは一気呵成に殺しまくってくれてOK。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、
真っ白な雪と真っ赤な血のコントラストがとても美しい映像美となって
背景を彩ってくれる。

それと、新潟方面に滑りに行かれる方なら既視感のある景色だと思う。
南魚沼と軽井沢の森で撮影されたらしい。

一見チープなホラーかと思いきや、練られた脚本と、
とてもクールな映像が噛み合ったなかなかの良作でありました。
(オススメ度:70 Amazonプライム会員なら90)

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週月曜の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
またまた週末に北東風強め。そんなわけで、またまた茨城の海。
ほとんど選択のしようのない状況ながら、これまでは何とか当ててきましたが、
悪運もそうは続かないようで・・・
   

テーマ:Amazonプライムビデオ - ジャンル:映画

2019.11.22 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

ノクターナル・アニマルズ

nocturnalanimals1.jpg



自らの名前を冠したブランドのファッションデザイナーであり、
イヴ・サンローラン、グッチグループ全体の
クリエイティブ・ディレクターも務めたトム・フォード監督作品
『ノクターナル・アニマルズ』。

その経歴だけですでに羨望の的なのだが、
そんな彼が映画の演出を手がけるのはこれで2作目。

監督第一作である『シングルマン』(2009)から
コリン・ファレルにジュリアン・ムーアといった大スターを起用し、
処女作からすでに別格。
それほどに彼のキャリアはズバ抜けており、
そんな彼の映像作家としての実力を測りたくて、
業界全体がウズウズして見守っていたと言っても過言ではない。

アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)は、
一見幸せな結婚生活ながら、その実、夫とはすれ違いの日々を送っていた。
そんなどこか満たされないスーザンの元に、
20年前に別れた元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から
「夜行性の獣たち(Noctural animals)」と名付けられた小説原稿が届く。

「君にインスパイアされた物語」とメモが綴られたその小説は、
物語の主人公が妻と娘と3人で出かけた旅行先で、
カージャックに遭い、妻と娘がレイプされたうえに殺害されてしまう。
妻と娘を失った男はその後、地元警察官とともに犯人たちを追い詰めていく。
という内容であった。

その物語は、過去の2人の生活とは一見無関係に見えるのだが、
その小説を引き金にして、スーザンはエドワードと過ごした日々を回想していく。

そうして、自身がエドワードにしてしまった過ちとともに、
彼がなぜこの小説をスーザンに送ってきたのか?
エドワードの真意を辿る逡巡の旅にスーザンは流されて行く・・・

nocturnalanimals3.jpg

こういったマルチタレントな人は、とかく妬みや嫉みの対象となるが、
トム・フォードの場合、ルックスもダントツにカッコよく(上の画像左の男性)、
天が三物も四物も与えた典型のような人なので、それも尚のことだと思う。

クリエイティブ・ディレクターと言っても、
それがどんな仕事か分かりづらいかも知れない。
それまでは完全な分業体制でまとめ上げられていたブランド管理を、
ショーの総合演出、店舗デザイン、衣装ケース、
箱、手提げ袋、包装紙に至るまで、
ファッションブランドのユーザーエクスペリエンスのすべてを、
デザイナーでありながら統括し、設計し直した第一人者。

本職の方も、ぐうの音も出ないほどの完璧主義者で、
完璧なだけでなく、それは革新的でもあり常に時代をリードしていた。
正直私もムカつくが、そういった感情など軽く通り過ぎてしまうほど
分かりやすい天才だ。

とはいえ、クリエイティブ・ディレクターと、映画のディレクターでは、
求められるものはまったく違う。
トム・フォードが映画に手を出すと聞いたときは
嫌な予感しかしなかったし、まだ妬みの感情が通り過ぎていなかった私は、
「失敗しろ」くらいに思っていたのですが、
こうして観終わると「失礼しました」と感服せざるを得ない。

とはいえ、メジャーで大ヒットするような種類の作品ではなく、
かといって、テレンス・マリックのようなカリスマ的作品でもない。
どことなく行き先不明な印象が拭えないのだが、
彼の場合、それもまた独自性と革新性と言って片付けてもいいのかも知れない。

nocturnalanimals4.jpg

カット割り、そして映像がとにかく美しい。
テレンス・マリックの即興のような映像美とは真逆の、
端から端まで計算し尽くされた、数学のような映像美だ。

今作もとてもセクシャルな内容になっていて、
送られてきた小説の内容は、性的な欠如感、
簡単に言ってしまえば欲求不満を抱えた男女のメタファーになっている。

そういったタブーに近いセクシャルな表現を、
美しいオブラートに包んで提示している作品なわけだが、
こういった高尚さが前面に出ている作品の場合、
観客を煙に巻くように、バッサリと終わっても良さそうなものなのに、
なんとか分かりやすくオチを付けようとしているところが興味深い。

私はこの小説は元夫からのラブレター(恋文)だと捉えたが、
元夫の仕組んだ復讐と捉える方もいるようだ。
こういった解釈の幅も、天才トム・フォードが狙った結果なのか?
それとも単に外しただけなのか?と、観る人によって賛否が分かれそう。

興味があれば、あなたの結論を確認してみてください。
そこはかとなく漂うような雰囲気で暴力的な描写や内容を覆い尽くす。
かなり希有で実験的な内容ですが、
そのぶん徐々に体内に浸透するように堆積する衝撃が、
なんとも病みつきになりそうな作品です。
(オススメ度:60)

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週月曜の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
悪いながらも一日を通して状況の変わらない波だったので、
ラウンド毎に違うボードを試してみました。
続けて試すといろいろ見えてくるわけでして・・・
  

テーマ:WOWOW/スカパーで観た映画の感想 - ジャンル:映画

2019.11.15 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

ブラック・クランズマン

bkackklansman.jpg



黒人刑事が白人至上主義を掲げる秘密結社KKKに潜入捜査をするという、
ほとんど冗談みたいな実話がベース。

奇しくも同じ91回アカデミー賞にノミネートされた『グリーンブック』同様に、
アメリカの人種差別問題を取り上げているが、そこはさすがのスパイク・リー。
ひとヒネりもふた捻りも利かせた演出で、重い問題を軽妙に吹き飛ばしてしまう
娯楽色の強い喜劇に仕立て上げているところがミソ。

blackklansman1.jpg

とにかくこのアフロヘアがキュートで、
当時における問題の深刻さとは裏腹に、
今となっては奇抜でしかないファッションセンスが妙に可笑しくもカッコイイ。

それは「それを問題にしている時点ですでに古い」とでも言いたげな
スパイク・リーの大人の対応でもあり、
迫害にも負けない主人公の強いメンタリティとしても色濃く顕れている。

タランティーノ作品『ジャンゴ 繋がれざる者』のように
あえて有色人種への迫害の強い時代に無頼漢な黒人ヒーローを
配置したりする力業ともちょっと違う。

黒人監督による差別意識への抵抗という構図ではなく、
それすらも笑いに変えてしまおうという大人の対処療法は、
昨今のヨシモト問題に対する吉本所属芸人たちの対応にも通じている。
とにかくそのこと自体を「笑い飛ばし」、「受け流す」。

もちろん、これによって事態が形骸化されては元も子もないが、
こういう伝え方をされると、
見せられた方が逆に考えさせられる事だってあると思う。

こういった荒療治が許されるのもまたスパイク・リーならではだろう。

とにかく、そういった背景や深刻さ、先入観を、観始めて10分で抜きにしてくれる。
オートマチックに今作を喜劇として楽しませる仕組みも大した物だと思う。
とにかく心をシンプルにして観るのが吉。
(オススメ度:80)

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週月曜日の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
毎度金曜日には「来週月曜はいつもの茨城の海に行ったお話です」という
おざなりな予告ばかりでありましたが、今回ばかりは違います!!!
この日の大貫は今季最高の波で私を迎えてくれました!お楽しみにー!!
  

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

2019.11.08 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

女王陛下のお気に入り

この度の台風19号による被害を受けられた皆さまに
心よりお見舞い申し上げます。
被災地の一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


thefavourite1.jpg



ロブスター』の鬼才ヨルゴス・ランティ監督作『女王陛下のお気に入り』。
第91回アカデミー賞にて、
アン王女を演じたオリヴィア・コールマンが主演女優賞を獲得し、
エマ・ストーンとレイチェル・ワイズの二人が、
同一作品から同時に助演女優賞にノミネートされ話題となった。

thefavourite3.jpg

舞台は18世紀のイングランド。
実に17度妊娠し、生まれた子供が一人として成人しなかった
と言われるアン王女(オリヴィア・コールマン)。
その代わりに何十匹ものウサギを可愛がる姿も痛々しく、
飽食の果てに重い痛風を患う女王を影で支えているのは
幼なじみのサラ(レイチェル・ワイズ)。

しかして、フランスとの戦時中においても、
政治的にも裏で様々な糸を引いていたのは他ならぬサラであった。

thefavourite4.jpg

そこにサラの親戚で、没落貴族の娘アビゲイル(エマ・ストーン)が、
サラを慕ってやって来る。
田舎育ちのアビゲイルは屋敷近くの森で薬草を摘んで帰り、
その薬草で作った湿布薬で通風による女王の足の痛みを和らげ、
その一件によってサラの侍女となり、一介の召使いの身分から昇進を果たす。

thefavourite5.jpg
thefavourite6.jpg

そこから、サラに隠れてアン王女の寵愛を得て
上流社会への復帰を企むアビゲイルと、
自身の立場を危うくさせるアビゲイルの行動を
露骨に邪魔をするサラとの、壮絶でいて陰湿な女同士の争いが始まる・・・

アン女王の本心とは裏腹に、フランスとの戦争を堅持しようとするサラと、
戦費のために税金を上げることに反対するトーリー党の
ハーリー(ニコラス・ホルト)と結託して、サラに抵抗するアビゲイル。

戦争反対という、現代のある意味ステレオタイプな一般論で物語を眺めていると、
サラが裏で糸を引く悪人に見える。
対して、ある程度の地位にまで行かないと、
明日の生活さえおぼつかないアビゲイルの立場を考えれば、
手段を選ばないアビゲイルの行動も仕方のないことのようにも映り、
アビゲイル寄りに見えるように物語は進行する。
しかして、
ヒートアップするアビゲイルの行き過ぎた出世欲は、
物語の折り返し地点でサラとアビゲイルの善悪の関係を一気に反転させる。

結論としてはどちらの考え方も間違っているし、
双方共に「悪」に他ならないのではあるが、だからこそ、
私利私欲だけで、女王や国益さえも手玉にとる二人の女の姿が
可笑しくも恐ろしい。

thefavourite76.jpg

自身の深い寂しさから、心からの助けをサラとアビゲイルに求めるアン女王。
子供のように無邪気でありながら、残酷過ぎるほどの権力を握るモンスターを
演じたオリヴィア・コールマンの演技は何はなくとも必見レベルであります。

thefavourite8.jpg

エマ・ストーンとレイチェル・ワイズという、二大女優を脇に置きながら、
アカデミー賞 主演女優賞を獲得するとは、どういうことか!と、
いぶかしく思っていた私でありましたが、
二人の女性の骨肉の争いを中心にしながら、
記憶に残っているのは結局アン王女だけ。
その絶望的な孤独感と、生まれながらの責任感の間で揺れる
アン王女の存在感はこの映画中もはや別格。
それは観れば誰であっても納得の鬼気迫る演技であると言えましょう。

もちろんヨルゴス・ランティ監督の高い手腕も、
独特なカメラワークやカット割りなどに遺憾なく発揮されている。

『ロブスター』は「結婚できない独り者は法律で動物に変えられてしまう」
という奇想天外であからさまな寓話でありましたが、
その不気味さを逆に利用しながら、観る者に不条理な世界で暮らすことを
ギリギリの現実として見せることに成功していた。

今作では、どこまでが真実で、どこからが創作なのかの境界線が曖昧な、
放蕩の度を超す悪い冗談のような狂乱の18世紀のヨーロッパを描き、
現実でありながらも、どこか作り話のようにもとれる
重く不穏な空気に包まれた世界観を、見事に描き出している。

明解な想像力と、歪みきった現実の攻防を是非堪能して欲しい。
(オススメ度:80)

_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ さて来週月曜の土と雪と:は _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
各地で甚大な被害をもたらした台風19号。
荒川からほど近く、浸水被害が懸念される私の住む町にも、
度重なる警報が鳴り響き、深夜過ぎまでまったく気の抜けない
息苦しい一日となりました。
  

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

2019.10.25 | コメント(0) | トラックバック(0) | 映画

«  | ホーム |  »

プロフィール

埼玉のへそ曲がり

Author:埼玉のへそ曲がり
オートバイと
スノーボード。
近ごろ波乗り。

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR